本研究は、20世紀のフランス思想の発展を、「概念の哲学」の目的である「学知la science」の探究と、マルクス主義の最終目的である「革命」の関係がいかなるものであるかを、『分析手帖』と『マルクス=レーニン主義手帖』という、68年5月直前の時期に高等師範学校生が刊行した二つの雑誌を出発点に理解することを目的とした。 2019年度は両者に共通するテーマである文学の位置づけに関して『フランス語フランス文学研究』誌にて査読論文を公刊した。同年9月には、現代世界図書館・文書館・博物館(パリ第10大学)にて調査を行った。その結果、共産主義青年同盟の活動や、『分析手帖』と『マルクス=レーニン主義手帖』の関係について新たな事実を明らかにすると考えられる史料を多数発見できた。 2020年度はフーコー、カンギレムといった思想家ににおける「学知」と「革命」あるいは政治的なものとの関係を明らかにする作業を中心として行われた。これらの研究によって、本研究が対象とする1960年代のフランスにおける「概念の哲学」の発展がより立体的に把握されることとなった。 2021年度の研究活動は、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響のため、既に収集した資料ならびに既刊の文献等の分析を実施した。特に、『分析手帖』と『マルクス=レーニン主義手帖』の内容の分析を踏まえた上で、同時代のフランスの思想状況を立体的かつ複眼的に再構築するという目的のもとに、文献の整理・読解を進めた。 2022年度には、さらに、本研究が目的とする1960年代後半の思想状況を理解するために必要不可欠であると思われる英仏語の文献の翻訳作業を行った。このうち仏語文献1点は、詳細な訳者解説とともに刊行済みである。また、これまでの研究の成果を統合しすることを目的として、2022年度中に京都大学大学院で特殊講義を実施した。
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