研究課題/領域番号 |
19K00050
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
箱田 徹 天理大学, 人間学部, 准教授 (40570156)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気候変動 / 採取主義 / 社会運動 / 気候正義 / 生政治 / 人新世 / 現代思想 / 暴力 |
研究実績の概要 |
2021年度は、いわゆる現代思想と現代の社会運動、とりわけ気候運動との関係を考察した。人間活動由来の温室効果ガスを原因とする地球温暖化がますます深刻化し、その悪影響が顕著に現れている。にもかかわらず、温室効果ガスの主要な排出源である化石燃料の燃焼について、それを支えるインフラストラクチャ(商品としての化石燃料が採掘から精製や加工、運搬を経て、燃焼・消費されるまでのプロセスを支える制度や設備)のオペレーションは、停止するどころか拡大を続けている。このことは、温暖化の進行を停止する意志よりも、これまでどおりの経済社会活動(ビジネス・アズ・ユージュアル)を続けようとする意志と利害が勝っており、現状変更に向けた国内的・国際的合意が存在しないことを示している。この状況への介入をめぐって、すでに取り組まれている運動実践やその歴史を踏まえた上で、世界各地の気候運動にかかわる実践家や研究者のあいだで活発な議論が行われている。 本年度は、近化石資本批判で注目を集めるスウェーデンの研究者アンドレアス・マルムの議論を、最新作『パイプライン爆破法』とともに日本語圏の読者に紹介するとともに、論文や講演といった機会をつうじて、気候運動における現状認識と戦術論についての先端的な議論が、非暴力直接行動、市民的不服従をめぐる過去と現状のさまざまな解放運動や抵抗運動の歴史を積極的に踏まえつつ、ポスト植民地主義、反レイシズム、BIPOC、フェミニズム、クィア、トランスといった現代の運動との連関を探りながら展開されていることを示すことができた。このほか、フーコーの生政治論の現代的展開として注目される、アントニオ・ネグリ&マイケル・ハートの著作『アセンブリ』の翻訳刊行を実現し、また関連イベントをとおして、本研究がテーマとする生政治論と採取主義批判との連関についての研究に継続して取り組むことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Covid-19パンデミックにより海外渡航を伴った現地調査がまったくできなかった。このため、当初構想してた研究計画を大幅に見直した。反面、採取主義批判と気候正義の関連性についての議論を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はベルリンでの研究滞在を通して、気候変動をめぐる運動と理論の現状について認識を深めるとともに、採取、ロジスティクス、インフラストラクチャ、労働の変容といった現代資本主義批判の最新の論点と、気候変動に関する批判的研究とを交差させた国際共同研究に向けた準備にとりくむ。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19パンデミックにより旅費が執行できなかったため、予定支出額との間に乖離が生じたことが大きな理由である。最終年度は滞在先のドイツでの調査関連での支出を予定している。
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