研究分担者の山田俊は、2022年2月刊行の『金朝道家道教の諸相』(汲古書院)所掲論考を含む各種の学術論文において、11~13世紀中国の知識人もしくは専門道士による老子注その他の著作を幅広く検証し、そのなかに『文子』や揚雄『法言』など各種の「諸子」が引用されている事実を掘り起こした。金代の寇才質がその『道徳真経四子古道集解』に『文子(通玄真経)』を多用していることに注目して唐代以来の『文子』受容史を概観し、かつその歴史のなかの注釈書の意義を明確化したことは、本科研の研究成果として特筆したい。 研究代表者の三浦秀一は、正徳・嘉靖期を代表する老子注として薛蕙『老子集解』と王道『老子億』が共通して儒仏道三教一致の思想傾向を有しつつも、とりわけ『老子億』に仏教由来の言葉が目につく理由を考察し、それは撰者王道のかつての師であった王守仁(陽明)の学問において「無善無悪」の主旨が正確に理解されていなかった事態を批判する意図のもと採用された方法であると捉えた。王門の朱得之がその荘子注である『荘子通義』において、陽明の致良知説を十全に把握すべく荘子に沈潜したことと同様、王道は仏教思想を駆使した老子注において、王学の不備を老子によって補おうとしたのであり、嘉靖後半における老荘という諸子の新たな活用方法がここには示されている。 三浦はまた、万暦年間に撰述された『詹氏性理小辨』の諸子学がこの時期の最新情報を活用したものであることを明らかにした。同書の撰者である詹景鳳は、「大道」に資する内容であるならばとの条件つきではあるが、この時期においてまだ稀覯本に属した諸子書をも幅広く渉猟するなか、当時通行の管子に関しては、宋本に依拠して新たに校勘された趙用賢のテキストを採用してその思想的意義を明らかにしたのである。
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