研究課題/領域番号 |
19K00055
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菊谷 竜太 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (50526671)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アームナーヤマンジャリー / アバヤーカラグプタ / インド密教 / 密教聖典 / 密教注釈文献 / カマラナータ / ラトナーカラシャーンティ / ラトナーヴァリー |
研究実績の概要 |
インド密教における百科事典的注釈書『アームナーヤマンジャリー』第1章の校訂・訳注研究を通して、中世インドならびにチベットにおける密教注釈文献の形成過程を明らかにしようとするのが本研究の主目的である。 同書はヴィクラマシーラ・ナーランダ・ヴァジュラーサナ三ヶ寺の学頭を兼任したとされる学僧アバヤーカラグプタ(11世紀頃)によってまとめられた『サンプトードバヴァタントラ』への注釈であるが、『サンプトードバヴァ』自体が『ヘーヴァジュラ』『チャクラサンヴァラ』両タントラへの釈タントラと目されており、1)根本聖典、2)根本聖典を注釈する聖典(釈タントラ)、3)根本聖典ならびに釈タントラへの注釈という基本的枠組のもと注解がなされていると考えられる。 こうした図式は第1章冒頭部において解説されており、他の章との記述内容とあわせて第1章の梵文・蔵訳テキストを制定し、それにもとづく訳注の作成を完遂することは、インド仏教における注釈文献の成立過程のみならず、プトゥン・リンチェントゥプ(1290-1364)の『サンプタ広注』(東北5071)など、チベットにおける密教注釈文献の理解にも大いに資することが期待できる。そのことは『アームナーヤマンジャリー』がプトゥンと同様にツォンカパの著作にも大きな影響を与えていることからも裏付けられよう。 『アームナーヤマンジャリー』は最近になって梵蔵バイリンガル写本が発見されており、本研究はこの新出バイリンガル写本にもとづき申請者の従来の研究を再構築したものである。これまでの調査でバイリンガル写本における梵蔵の対応は必ずしも一致するわけではなく、蔵訳によって梵文部分を訂正できる場合が少なくない。より重要なのは、カマラナータのヘーヴァジュラ注『ラトナーヴァリー』の並行箇所であり、ラトナーカラシャーンティの『ムクターヴァリー』と合わせて校訂作業に必須であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インド密教における百科事典的注釈書『アームナーヤマンジャリー』第1章の校訂・訳注作業を進めており、初年度となる本年度は第1章全体の翻刻とそれに続く校訂作業を一通り終えることができた。『アームナーヤマンジャリー』はアバヤーカラグプタの著作ではあるが、他のアバヤーカラの著作と同じく、その記述の多くが他の文献からの並行箇所あるいは引用で占められており、『アームナーヤ』は基本的にカマラナータのヘーヴァジュラ注『ラトナーヴァリー』と同じくラトナーカラシャーンティのヘーヴァジュラ注『ムクターヴァリー』からの並行箇所が多く見られる。 この背景には『アームナーヤマンジャリー』自体が『サンプトードバヴァタントラ』の注釈であり、サンプトードバヴァがまたヘーヴァジュラと多くの並行箇所をもつという事情によっている。もちろん、アバヤーカラの他のブッダカパーラ注『アバヤパッダティ』からの並行箇所も重要であり、これらの対応箇所に留意しつつ校訂作業を進めていく必要がある。現在『アームナーヤマンジャリー』には梵文写本と梵蔵バイリンガル写本という二つの梵文原典の存在が知られているが、我々が現在利用できるのは後者の梵蔵バイリンガル写本だけである。バイリンガル写本は本来二つのバンドルで構成されていたと考えられるが、残念ながら最初の一つのみが現存し、残る半分は不明である。第1章はいわば全体の章のまとめにあたり、第1章の後半部分はとくに失われた後半のバンドルの内容を説明する箇所に当たる。したがって、対応する箇所の梵文原典を欠いていることは問題であるが、他の回収可能な並行箇所を対照し、できるだけ復元に努めたい。 同様の問題が第1章そのものにもあり、前半のバンドル全体で1葉半が残念ながら欠けている。このうち1葉が第1章の部分に当たるが、この部分も並行箇所を参照することによって、ある程度の復元が可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度となる本年度は、前年度の研究で明らかになった写本の欠落部分とその復元作業を中心に、できうる限りの並行箇所を対照しながら校訂作業を継続し、より精密な校訂テキストの制定に努める。この作業と並行して、訳注の作成も継続的に行う。前年度までの調査によって、少なくとも『アームナーヤヤンジャリー』第1章については、ラトナーカラシャーンティとカマラナータのヘーヴァジュラ注、同じくラトナーカラによる秘密集会注との並行箇所があり、また同様にアバヤーカラ自身による『アバヤパッダティ』との並行箇所も見られることが明らかになった。こうした並行箇所によって、バイリンガル写本が抱える問題をある程度修正するとともに『アームナーヤ』自身の編纂過程もより明瞭になることが期待される。 このような並行箇所についての情報は順次に校訂テキスト取り入れていく予定であるが、もう一つ問題なのは『アームナーヤ』の聖典である『サンプトードバヴァタントラ』についてである。現状ではスコルプスキー教授の校訂テキストを参照しつつも状況に応じて『サンプトードヴァ』自体の梵文写本を対照し修正にあたっているが、そもそも『サンプトードバヴァ』自体が他のタントラ聖典と多くの箇所を共有するために処理が難しい箇所が見出される。作業状況とあわせてこうした情報もできうる限り校訂テキストに反映させたい。なお、第1章の後半には、脈管・脈輪の身体観にもとづくヨーガと曼荼羅の部族組織についての説明が述べられているが、それらのトピックのうち、前者に関連するウトクラーンティヨーガの部分は梵文が失われた後半のバンドルに収録され、後者のうち対応するいくつかの部分は前半のバンドルから回収できるので、次年度となる本年度では、さきの取り上げた並行箇所とあわせてこのような『アームナーヤ』自身の対応部分を対照しながら、暫時的に制定した校訂・訳注の精査をさらに進めたい。
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