研究課題/領域番号 |
19K00056
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
古橋 紀宏 香川大学, 教育学部, 准教授 (90832296)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 偽古文尚書 / 孔安国伝 / 鄭沖 / 王粛 / 明帝 / 鄭玄 / 群書治要 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、前年度に引き続き『古文尚書』孔安国伝の考察を進め、東晋におけるその出現の背景について研究成果を発表した。 東晋において献上された『古文尚書』(『偽古文尚書』)孔安国伝には舜典が欠けていたため、舜典については既存の注によって補われることになった。『群書治要』に引用された『尚書』舜典の注(『群書治要』舜典注)は、その補われていた注から引用されたものである。先行研究では、『群書治要』舜典注がすべて王粛注からの引用であるか、一部に鄭玄説を採用した范寧注からの引用が含まれるかについて、見解が分かれていたため、本研究では、まずその点を検証した。その結果、『群書治要』所引『尚書』舜典「正月上日、受終于文祖」の注の説は、漢代の用例に見える解釈とは明白に異なり、経学上の特徴から、それは鄭玄説または鄭玄学派の説を採用したものであると推定した。あわせて、その説は、曹魏明帝によって三度にわたり採用され、明帝期に台頭したことを明らかにした。 そして、明帝没後に成立した『論語集解』や、魏末に元帝が譲位した時の策では、明帝期に台頭した説ではなく、漢代の用例と同じ解釈が採用されている。『論語集解』と元帝譲位の策には、いずれも鄭沖が関与しており、鄭沖は『尚書』に通じていたことが確認されることから、それは鄭沖の説であり、鄭沖は明帝期に台頭した説を否定する立場に立っていたと考えられる。これは王粛の立場と共通するものであり、その立場は『偽古文尚書』大禹謨の孔安国伝にも継承されている。 このことから、本研究では、東晋において『偽古文尚書』とその孔安国伝が出現した背景の一つとして、明帝期に台頭した鄭玄説への反対があり、『偽古文尚書』に孔安国の伝と序が付けられたのは、緯書を組み入れた鄭玄説に代わり、緯書の影響を受けていない権威ある経書解釈を求めていた当時の社会的要請に応じるものであったことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画においては、本年度、鄭玄の周制に関する説を幅広く取り上げる予定であったが、本年度は『古文尚書』孔安国伝の出現に関する問題点が考察の中心となり、それに関連する鄭玄説は取り上げたものの、鄭玄説を幅広く考察するには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画において、次年度は『古文尚書』孔安国伝以外の諸文献との比較作業を進める予定であったが、本年度において既に『古文尚書』孔安国伝以外の文献との比較作業を開始したため、次年度もその作業を継続していく予定である。 一方で、本年度の予定であった鄭玄の周制に関する説を幅広く取り上げていくことが遅滞しているため、次年度は鄭玄説の中でも本年度考察を進めた『古文尚書』孔安国伝に関わる部分を優先して取り上げ、『古文尚書』孔安国伝と鄭玄説との関連をさらに解明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も、前年度に引き続き、新型コロナウイルスの影響により、予定していた資料の収集・調査のための出張を中止したこと等により、次年度使用額が生じた。 次年度以降においても他機関における資料の収集・調査に困難が生じる可能性があることから、その事態に備え、次年度使用額は資料の購入やデータベース利用環境の整備のために使用する予定である。
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