研究課題/領域番号 |
19K00058
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
川尻 文彦 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (20299001)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 西洋 / 東洋 / 文明 / 思想 / 中国 / 近代 |
研究実績の概要 |
本研究課題である辜鴻銘思想の研究を深めるために必要な作業を行った。辜鴻銘は西洋文明と中国文明を比較する立場から出発し、西洋文明と中国文明のそれぞれの研究解明に深く没入したうえで、中国文明の普遍的な価値を西洋文明の文脈の中に提示した。その際、中国語ではなく英語やドイツ語などの西洋語で中国文明を説明しようとした。西洋文明と中国文明の間の異文明間接触を自らの思想の中で実践しようとした稀有な思想家である。そこで私はtrans-culturalな彼の思想を分析するための準備として、方法論的なものに関心を寄せ、考察し、分析を加えた論文作成を試み、発表した。「中国近代思想研究方法序説(三)」(『国際文化研究科論集』第21号、愛知県立大学大学院、2020年3月)では、東アジアにおける「思想連鎖」を取り扱った山室信一の研究を取り上げ、その意義と問題点を指摘した。またデヴィッド・アーミテイジの国際論的思想史(international intellectual history)の方法論を取り上げた。アーミテイジはケンブリッジ学派に属し、思想史方法論としてスキナーのコンテクト主義(ラブジョイの観念の歴史を批判した)を評価しながらも、スキナーがナショナリズムを批判したが逆に「国民国家」思想史を強化したことを批判し、思想史の国際論的転回(the international turn in intellectual history)を提唱した。アーミテイジの提言を踏まえ、私たちは辜鴻銘を含め中国近代思想の研究をどのように行っていくことができるのか。また中国近代思想の基礎概念を再確認する作業として『中国思想基本用語集』(湯浅邦弘編、ミネルヴァ書房、2020年)の編集作業に加わった。現代中国学会東海部会の口頭発表でベンジャミン・シュウォルツやポール・コーエンの西洋と東洋の比較思想の方法論を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の4年計画(2019-2022年度)の1年目であり、必要な書籍を購入したり、研究の目星をつけたりする作業を行った。個人思想家の単なる伝記研究にとどまらないものにするために、より広い視野からの研究課題にアプローチしたいと考えた。残念ながらコロナ・ウイルスの影響で研究活動の遂行に大きな影響が出ていることは否定できない。とりわけ国内、国内の出張、資料調査を行うことに困難が生じている。そのことを念頭におきながら、現在の環境下でできることを先取りして行いたいと考えている。これまで私が行ってきた研究の概念的な総括を行ったり、近年の研究動向を踏まえ、新たな知見を加味した研究等を進めたい。それらの目的はおおむね達成できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
残りの3年間(2020-2022年度)で研究成果を出せるように計画を組み立てていく。コロナ・ウイルスの影響で中断している海外と国内での資料調査を早ければ今年度の後半から開始する。必要な資料をそろえ、読み込んでいく作業に時間を割くようにしたい。異文明間、異文化間における思想接触という一貫したテーマ設定のもとで、辜鴻銘思想の研究をより豊かなものへと発展させていくためにはどのような研究の推進方策が必要なのか、より視野を広げて考えていく。ある意味で「遠回り」かもしれないが、辜鴻銘の「外堀」を埋めていくような作業も有効なのでないかと考える。辜鴻銘が残した文献はそれほど多くはない。しかし使用言語が英・独・中・日と多様であり、また扱っているテーマが中国、西洋の古典に幅広く触れており、研究者の深い読みを必要としている。時間をかけて取り組まなくてはならないだろう。また同時代の周辺の思想家たちに目配りして研究を進めなくてはならない。1910年代から1920年代にかけて北京大学で同僚でもあった新青年グループを含めた同時代の知識人たちとの交遊も追えるであろう。彼らとの何らかの思想的な接点を見出したい。そのことによって辜鴻銘の思索について別の角度からの追跡が可能になる。もう一つは、2021年度(来年度)以降になってしまうかもしれないが、国内の図書館において辜鴻銘の訪日時期についての網羅的な調査を行わなくてはならない。1920年代に日本において数多くの講演を行い、好評を博したが、その講演記録についてはまだ調査しきれていない部分がある。文献的、書誌的な作業をつめていく。さらに最晩年の彼の日本での事績を追うことで、彼の思想の新たな分析を可能にできるであろう期待がある。
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