研究課題/領域番号 |
19K00064
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
山口 しのぶ 東洋大学, 文学部, 教授 (70319226)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バリ・ヒンドゥー教 / Vedaparikrama / ヴェーダ・パリクラマ / 人生儀礼 / 通過儀礼 / Wedaparikrama / Balinese Hinduism |
研究実績の概要 |
本研究は、インドネシアのバリ島のヒンドゥー教の儀礼の構造と特色を考察することにより、ヒンドゥー教および仏教がバリ島においてどのように受容され変容したかを明らかにすることを目的としている。2019年度はインドネシア、バリ島のヒンドゥー教儀礼について、通過儀礼の一種「バユ・オトン儀礼」の現地調査と関連文献研究を行い、2020年度もその研究内容を継続する予定であった。しかしながら2020年度は新型コロナウイルスの流行のため、バリ島での現地調査のための海外出張は不可能となった。そこで2020年度は調査対象の「バユ・オトン」で使用されるサンスクリット・テキスト『ヴェーダ・パリクラマ』Vedaparikrama(略号VP)の儀礼テキストとしての特色の解明を目指した。本儀軌の成立年代は明らかではないが、バリ・ヒンドゥーの僧侶が聖水を用いた日常の儀礼や通過儀礼の一部などで現在も用いられている。本テキストは1933年にインド学者Sylvan Leviが校訂テキストを出版して以降ほとんど研究がなかったが、2007年インドネシア人研究者G. Pujaが校訂テキストとインドネシア語訳を出版した。このテキストはバリ島にインド文化が伝播し、バリ的に変容した形態を示す重要な例と考えられるが、国内外にはほとんど先行研究は見られず本研究は先駆的であると考えられる。VPでは聖水の制作が中心であるが、それ以外に調息というヨーガ的な要素や、僧侶の心臓にあるシヴァ神を身体の外に引き出し穢れを焼き払う行為も見られる。ここからヨーガの要素を含み身体という場を利用した儀礼の内化、精神化が行われていることが明らかになった。この研究の具体的な成果として「バリ・ヒンドゥー教のサンスクリット儀軌Wedaparikrama─儀軌の概要および部分訳」(『東洋思想文化』第8号、2021年3月, pp.112-132)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
周知のように2020年度はコロナウイルスのまん延のため、バリ島への出張が中止となった。研究対象となる儀礼の執行者であるインフォーマントの住居はバリ島郊外にあり、インターネット環境が整っておらず、また高齢者のためメールでのやり取りが不可能であった。研究成果欄に述べたように、2020年度はバリ島の儀礼で使用されているサンスクリット・テキストの内容分析を中心に研究を進め論文を発表したが、現地調査での疑問点の聞き取りが全くできなかった。通常行っていた聞き取り調査の方法では、成果を上げることは今後難しいと考えられるので、他の効果的な方法を模索中である。 またサンスクリット・テキスト研究に関しては、研究対象テキストの大まかな構造と特色の初期的な考察は完了したと思われるが、儀礼行為中に含まれる瞑想やヨーガ、タントリックな要素など、まだ明らかにしていない部分が残されており、これらは今後の課題として研究を行う所存である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルスのまん延が予想外に長期間続いており、例えば2021年度夏期休暇中のインドネシア出張も難しい状況となってきている。このままでは儀礼分析に関する疑問点を明らかにするための現地調査がいつ行えるのかという問題があり、何らかの形でできるだけ対応を試みなければならない。現在考えているのは、メールやSNSなどで連絡が取れる現地の研究者に疑問点をまとめた内容を送信し、その研究者に老齢のインフォーマントに電話連絡をしてもらうという方法である。ある程度の限界はあるかもしれないが、2021年度に試みる予定である。 またテキスト研究に関しては、国内でもある程度可能であるので、このまま継続して内容分析を続けていきたい。しかしながら、当該テキストはバリ島で使用されており、内容的には、例えばバリのシヴァ神信仰など現地研究者や僧侶などしか知りえない情報などもあると考えられるので、現地研究者等にメールで聞き取りを行っていき疑問点を解決したい。またテキストのヨーガ的要素やタントリズム的要素の分析に関しては、インドのシヴァ派系のサンスクリット・テキストの講読やシヴァ信仰に関わる先行の諸研究を参照し解明に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ禍のため、インドネシア出張が中止となり、予定の予算執行ができなかった。2021年度は、昨年度実施できなかったインドネシア出張を2回予定している。
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