研究課題/領域番号 |
19K00066
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研究機関 | 国際仏教学大学院大学 |
研究代表者 |
堀 伸一郎 国際仏教学大学院大学, 国際仏教学研究所, 研究員 (60339778)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サンスクリット写本 / 写本識語 / 後期インド仏教史 / 東インド中世史 / パーラ朝 / インド暦 / 赤外線撮影 |
研究実績の概要 |
ムガル絵画をはじめとするインド絵画の収集家でありインド美術史研究者でもある、Catherine Glynn Benkaim博士が所有し、現在クリーヴランド美術館(Cleveland Museum of Art)に寄託するPancaraksa貝葉写本の識語について、論文を刊行した。当該写本は、パーラ朝のラーマパーラ在位39年目に東インドで作成されたものである。識語には、tithi(インドの太陰太陽暦で月の満ち欠けに基づく日付)のほか、曜日、ナクシャトラ(星宿)、さらに太陽日と考えられる第2の日付が明記されているため、インド暦西暦換算コンピューター・プログラムPancangaを応用することにより、西暦1117年8月2日木曜日に筆写完了したことが確定できた。その結果、ラーマパーラの在位期間も従来以上の確度で推定できる。これは、日付まで確定できる史料がほとんどないパーラ朝の研究において画期的な成果であり、今後、パーラ朝年代論において確実な絶対年代を与えるものとなろう。さらに、ラーマパーラ在位中に活躍した学僧アバヤーカラグプタの著作等の年代論にも直接関係するため、後期インド仏教史研究にも波及する。当該論文では、クリーヴランド美術館から提供された、識語を含む最終葉両面のカラー画像と赤外線撮影画像を図版として付した。寄進者の父親の名前が、摩滅のためカラー画像でも写本実見でも解読困難であったが、赤外線画像では解読できた。サンスクリット貝葉写本の摩滅した部分を解読するために、赤外線撮影デジタル画像が有用であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年12月~2020年1月にインド、コルカタとワーラーナシーに出張し、Asiatic Society(コルカタ)、カルカッタ大学Asutosh Museum of Indian Art、バナーラス・ヒンドゥー大学Bharat Kala Bhavan、Jnana-Pravaha(ワーラーナシー)でサンスクリット写本の実見調査を実施した。以前の調査で閲覧できなかった写本の大部分を実見調査でき、半数の所蔵機関でデジタル画像を入手できた。国内では、東京国立博物館でサンスクリット貝葉写本の実見調査を実施し、デジタル画像を請求、入手できた。 2020年3月にも海外のサンスクリット写本所蔵機関で実見調査を予定していたが、COVID-19の感染拡大のため実現できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の世界的感染拡大のため、2020年度に参加・発表を予定していた二つの国際学会がいずれも2021年度に延期された。2020年度に予定していた海外での調査が実現できるかは不透明である。このような状況では、インターネット上の情報検索、既存の写本カタログや美術館・博物館の図録等を手掛かりに、東インドに由来するサンスクリット写本を抽出する作業に注力せざるを得ない。海外調査が実現できるまでは、所蔵機関にメールで照会し、写本の撮影を依頼し、デジタル画像などを入手したうえで研究を進め、状況が改善し次第、実見調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に海外のサンスクリット写本所蔵機関で実見調査を予定していたが、COVID-19の感染拡大により実現できなかったため、次年度使用額が生じた。海外調査を次年度以降に延期し、それに伴って生じる旅費も次年度以降に使用する予定である。
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