研究課題/領域番号 |
19K00067
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研究機関 | 国際仏教学大学院大学 |
研究代表者 |
生野 昌範 国際仏教学大学院大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (60512928)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | [根本]説一切有部 / ギルギット / サンスクリット語写本 / 律 / 雑阿含経 / 長阿含経 / トカラ語 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ合衆国ヴァージニア州の匿名の個人収集家によって所有されているサンスクリット語写本コレクションのうちで研究代表者に委任されている126点のサンスクリット語写本断簡に対して、チベット訳と漢訳とを比較しつつ読解研究を行なうことにより、[根本]説一切有部の聖典の内の経蔵と律蔵に属するこれらの写本断簡に関する基礎的資料を確立することを目的とする。 令和2年度は、126点の写本断簡のサンスクリット語テキストのうち52点に対して読解研究を行なった。サンスクリット語断簡の読解研究を行なうにあたって、Cone版、Derge版、Phug brag写本、Lhasa版、London写本、Narthang版、Peking版、Stog写本の8種の資料を校合してチベット訳テキストを読解するとともに、さらに大正新脩大蔵経による漢訳テキストも読解したうえで、それらサンスクリット語テキスト、チベット訳テキスト、漢訳テキストを比較し検討を行なった。また、聖典内の律に属する断簡に関しては、サンスクリット語とチベット語により現存している律の綱要書である『ヴィナヤ・スートラ』ならびにその注釈書も読解したうえで利用した。 今年度は、本研究に関する学術論文を3点公表した。まず、このコレクションのうちの律に関する『ヴィナヤ・ウッタラグランタ』のうちの『ウパーリ・パリプリッチャー』に属するサンスクリット語断簡2点のテキスト校訂と読解研究を行ない、公表した。続いて、根本説一切有部律における和尚と阿闍梨に関する発表を日本印度学仏教学会第71回学術大会において行ない、論文も公表した。また、トカラ語Bによる断簡1点に関して現存する仏典との比較考察を行ない、そのトカラ語B断簡は仏典の中でも根本説一切有律にもっとも関連が深いと考えられうることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象であるサンスクリット語写本のデジタル資料はすでに入手しており、チベット語資料の数種の異なる版、および漢訳資料に関しても順次検討を加えつ つ、読解研究を行なっている。また、海外の関連する研究者たちとも連絡・意見交換を行いつつ本研究を実施しているので、本研究の進捗状況に支障は見られな い。さらに、国内学会において関連する研究発表も行ない、今年度は本研究に関係する3本の論文を公表した。したがって、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の計画にそって着実に研究を進めるとともに、研究成果を順次公表する。次年度は、126点のサンスクリット語写本断簡のうち、昨年度と本年度で検討した106点を除いた断簡20点を検討する予定である。これら20点の断簡は概して非常に零細な断片であるために、いまだにテキストを同定することができていない。これらの断簡20点の同定はきわめて困難であることが予想されうるので、関連する研究者との意見交換を密に行ない、これらの断簡の研究をより有意義なものとするよう努める。
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