本研究は、アメリカ合衆国ヴァージニア州の匿名の個人収集家によって所有されているサンスクリット語写本コレクションのうちで研究代表者に委任されている126点のサンスクリット語写本断簡に対して、チベット訳と漢訳と比較しつつ読解研究を行なうことにより、[根本]説一切有部の聖典の内の経蔵と律蔵に属するこれらの写本断簡に関する基礎的資料を確立することを目的とする。 今までの2年間で126点の写本断簡のサンスクリット語テキストとそれに対応するチベット訳テキストと漢訳テキスト、ならびに本研究で扱うサンスクリット語テキストの参考となる『ヴィナヤ・スートラ』とその注釈書の検討を完了したので、令和3年度はそれら全ての資料の再検討を行なった。ただし、126点のうち20点のサンスクリット語テキストは同定することができなかったが、今後のためにできる限り正確なテキストを作成し、読解研究を行なった。 さらに、今年度は本研究に関する学術論文を3点公表した。まず、このコレクションのうちの『ヴィナヤ・ヴィバンガ』のナイッサルギカー・パーヤッティカー第二条に相当するサンスクリット語断簡のテキスト校訂と読解研究を行ない、公表した。また、本研究において参考資料として取り扱っている『ヴィナヤ・スートラ』の注釈書に属するフォリオでありながら今までそのように認識されていなかった3枚のフォリオを同定し、報告した。その上で、『ヴィナヤ・スートラ』の注釈書であると新たに同定したそのフォリオにおいて引用されている『根本説一切有部律』のテキストを抽出し、読解研究を行なった。
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