研究課題/領域番号 |
19K00068
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研究機関 | 国際仏教学大学院大学 |
研究代表者 |
田戸 大智 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 講師 (10726847)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 論義 / 三論宗 / 東大寺 / 大乗義章 / 大乗義章抄 / 慧遠 / 吉蔵 / 寛信 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は、①「身延文庫蔵「大乗義章第八抄」所収「六道義・八難義・十二入義・十八界義」翻刻」(『日本古写経研究所研究紀要』第7号、国際仏教学大学院大学附置日本古写経研究所、2022年3月)のみにとどまる。 ①では、勧修寺法務と呼称された寛信(1084~1153)が『大乗義章』関連の論義を取りまとめた「大乗義章抄」13帖の中、「第八抄」に含まれる「六道義・八難義・十二入義・十八界義」の4義科を翻刻した。同翻刻によれば、浄影寺慧遠(523~592)撰とされる『大乗義章』が平安期以降に醸成された三論と密教の兼学化を背景に、吉蔵(549~623)の教学を補完する三論宗の重要文献として認知されていたことが窺われる。 中でも、「十二入義」に含まれる問答の一つは、東大寺図書館蔵『義章問答』巻2との比較検証から、「第八抄」が筆録された天養元年(1144)とほぼ同時代の久安2年(1146)に実施された最勝講でも論義されていたことが判明し、同じく東大寺図書館蔵『法勝寺御八講問答記』第13によれば、建長3年(1251)にも同様の論義が見出される。このことから、東大寺にて「大乗義章三十講」が始行されたと伝えられる保延2年(1136)頃、すなわち12世紀前半頃までに各議題の綱要がほぼ固まり、「大乗義章抄」や『義章問答』等にその論義内容が集成され、それ以降、南都北嶺双方にわたって議論の共有化が促進されていったことが推測される。本稿の意義は、他文献との比較により上記のような論義形成の変遷を明確化した点にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、平安期以降に三論宗と密教の兼学化が進展する中で、東密新義教学を大成させた頼瑜(1226~1304)が『大乗義章』を修学していた実態について考察を加え、新義学派の論義が南都で培われた論義を基盤に醸成されていった蓋然性が高いことを具体的に論証した。 2020年度は、東大寺の宗性(1202~1278)が著した『法勝寺御八講問答記』に所収される三論宗関連論義の全容について解明を試み、実は吉蔵よりも慧遠の著作にもとづく論義のほうが多く収録されている事実を突き止めた。このことは、三論宗の学僧が慧遠の学説を吉蔵と同様に重視していたことを傍証するものであり、慧遠に関連する論義の一部については、寛信が取りまとめた「大乗義章抄」にまで遡及できることもはじめて指摘した。 2021年度は、先の両年度から継続的に試みている、「大乗義章抄」の翻刻研究を提示した。本翻刻により、「第八抄」に収載される全9義科の翻刻はすべて完了することができた。しかしながら、この他の研究は、①コロナ禍で資料調査が予定どおり実施できなかった、②既に複写済みの写本の解読に予想以上の時間を要することになった、などの諸要因により成果を公開することができなかった。 現状では、当初の計画よりやや遅れていることから、研究期間を1年間延長して取り組むべき課題を究明し、その成果を発表する予定で考えている。
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今後の研究の推進方策 |
〔2022年度〕研究の推進のために以下のような具体的方策を計画している。 本年度は、東大寺図書館蔵『恵日古光鈔』13帖の中、第7・第8に所収される吉蔵撰『大般涅槃経疏』に関連する論義の解明を先ず試みることにしたい。同書は、東大寺の聖守(1215~1291)の指導の下、門弟の聖然(?~1312)が勅会やそれに準ずる法会で交わされた三論宗に関する論題を集成し、吉蔵の論疏、すなわち『三論玄義』『法華義疏』などを含む24の著作ごとに分類・配列した構成となっている。特に注目すべきは、『恵日古光鈔』に「大乗義章抄」が援用されている点であり、吉蔵の論疏を修学するために『大乗義章』の論義を参酌することが必須であったことが改めて傍証できる。本研究では、①吉蔵撰『大般涅槃経疏』20巻は逸書であり、平井俊榮氏により逸文が収集されているが、それを大幅に補う多数の逸文が『恵日古光鈔』に引用されている、②逸文の解読から、実態がよく分からない吉蔵撰『大般涅槃経疏』に依拠して、中世三論宗の学僧がどのような問題を論義していたのか、という2点について検証することを目的としている。なお、『恵日古光鈔』を主たる研究対象としながら、身延文庫蔵「大乗義章抄」や東大寺の宗性が書写した論義関連文献、例えば『法勝寺御八講問答記』(東大寺図書館蔵113函-27)・『維摩会問答記』9帖(同蔵113函-71)なども適宜参照して比較分析を行う予定で考えている。 この他、「大乗義章抄」の翻刻研究は継続的に実施する。上記した研究成果は、学会での口頭発表や論文発表などによって公表する。 さらに、名古屋の真福寺大須文庫が所蔵する東大寺三論宗の憲朝(生没年未詳)がまとめた論義古写本の原本調査や身延文庫蔵「大乗義章抄」の再調査(不明確箇所の再撮影)も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、2019年度から2021年度までの3年間で完了する予定であったが、コロナ禍や写本解読の遅延などの諸要因により、当初の計画どおりに進まなかったため、研究期間を1年間延長することになった。 2021年度は、①東大図書館調査、②真福寺大須文庫調査、③身延文庫調査、計3回の資料調査を行う予定で考えていたが、コロナ禍の影響により、①東大寺図書館調査のみの実施にとどまった。したがって、②③の資料調査を行うために計上していた旅費などの諸経費が剰余金として発生する状況になった。 2022年度は、改めて①の再調査で宗性文献の閲覧、②の調査で憲朝の三論宗関連文献の閲覧、③の調査で「大乗義章抄」の閲覧を実施し、必要文献の複写を依頼する計画である。また、余剰金の範囲内で研究関連書籍の購入も予定している。
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