研究課題/領域番号 |
19K00070
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (60440872)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジャイナ教 / 推理論 / パートラスヴァーミン / アルチャタ / 内遍充 / 外遍充 / 真実集成 / 真実集成細注 |
研究実績の概要 |
シャーンタラクシタ、カマラシーラ師弟の著作である『真実集成』と『真実集成細注』(以下『細注』)は全26章からなる大部の綱要書であるが、少なくとも4つの章においてジャイナ教学説が紹介・批判されている。それらは大別して、存在のあり方(存在論)、存在の把握のされ方とその方法(認識論)、推理論(論理学)という3種に分類することができる。当該年度は特に推理論(論理学)について研究を進めた。『真実集成』第18章「推理の考察」においては、ジャイナ教論師パートラスヴァーミン(7-8世紀)による論証因一条件説が紹介されている。これはディグナーガ以来主張されていた論証因の三条件に対抗する形で提示されたものであるが、後代のジャイナ教の伝統において内遍充論と同一視されるようになり、「あらゆるものは多面的な存在である」という命題を論証する強力な装置として用いられるに至る。一方、ダルマキールティ以降の仏教徒たちは、瞬間的存在(刹那滅)論証に取り組むようになるが、この論証も論理形式としては<内遍充論>を適用せざるをえないため、両者は奇しくも論理学上の見解において接近することになる。当該年度は主に上記「推理の考察」章のうち、パートラスヴァーミンと仏教徒の対論箇所を精読し、テキスト校訂と翻訳の作業を行った。なお、同章の翻訳研究についてはすでに公表済みであるが、より正確な校訂テキストの出版を目指して再校訂の作業を進めている。なお<内遍充論>は、最終的に仏教徒にとっても瞬間的存在論証を行うための重要な論理装置となるが、特にアルチャタは内遍充の対概念である<外遍充>を直接的に批判しているため、これまでも研究者の間で彼が内遍充論者と見なされることが少なからずあった。今回の研究を通じてその問題についても、新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題全体の問題意識は、(A)8世紀の仏教論理学者アルチャタ、シャーンタラクシタ、カマラシーラは、ジャイナ教の中心思想の一つである<多面的実在論>をどのように紹介(再現)し批判したのか。また仏教論理学者たちの間で、紹介・批判の仕方にいかなる相違があり、それらはどのように変遷したのか、また(B)仏教論理学派が把握していたジャイナ教学説の全体像はどのようなものであったのか。さらにジャイナ教徒が主張する存在論と認識論及び推理論はいかなる関係にあったのか、というものであったが、当該年度は特に(B)の問いに取り組んだ。具体的には、以下の3点:①『論証因一滴論注』に見られるジャイナ教学説とそれに対する批判部分の研究、②『論理一滴論注』の復注研究:ドゥルヴェーカミシュラと新発見の復注のテキスト解読、③『真理綱要』『真理綱要細注』に現れるジャイナ教学説の収集と分類、テキスト分析 に取り組む予定を立てていたが、当該年度は主に③について取り組んだ。当初は②について先に取り組み、その後③へと移行する予定であったが、研究の都合上、③に先に取り組む方がより着実にまた効率的に研究を進めることができると判断したためである。②については現時点で未着手であるものの、来年度及び再来年度のメインの研究テーマとしたい。③については特に『真実集成』第18章「推理の考察」のテキスト校訂と翻訳作業を進めたが、その他の章についても同時進行で校訂・翻訳作業を進めており、全体として研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、本研究課題は「おおむね順調に進展している」ため、研究計画の変更等は特に考えていないが、今後も可能な限り効率的かつ周到に研究を進めていきたい。来年度以降は、研究計画の柱となる三つのテーマ(①『論証因一滴論注』に見られるジャイナ教学説とそれに対する批判部分の研究、②『論証因一滴論注』の復注研究:ドゥルヴェーカミシュラと新発見の復注のテキスト解読、③『真実集成』と『真実集成細注』に現れるジャイナ教学説の収集と分類、テキスト分析)のうち、②に重点的に取り組みたい。まずはアルチャタによる『論証因一滴論注』の中のジャイナ教学説の紹介部分に対するドゥルヴェーカミシュラによる復注『論証因一滴論注の光』の解釈を確認し、『論証因一滴論注』の当該箇所の校訂テキストと翻訳をより確かなものとしたい。また『論証因一滴論注』に対する新発見の復注を参照し、同書当該箇所の読解に役立てるとともに、写本からの文字起こしとテキストの作成を試みたい。その際、ドゥルヴェーカミシュラの師匠にあたるジターリが著したジャイナ教批判の小論(『ジャイナ教徒の見解の考察』)も参照しつつ、ドゥルヴェーカミシュラの復注と新発見の復注の関係を探りたい。概してサンスクリット・テキストの校訂と翻訳の作業は時間を要するものであるため、しっかりと作業の時間を確保するとともに、予期せぬ遅れが生じることも想定しつつ研究を推進していきたい。
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