当該年度は主に『真実集成』及び『真実集成細注』に現れるジャイナ教学説の収集・分類とテキスト分析を行った。仏教徒が紹介・批判するジャイナ教学説の全貌を知るためには、まず関連するパッセージを収集することが必須の作業となるが、その際『真実集成』及び『真実集成細注』は絶好の情報源となる。報告者は『真実集成』及び『真実集成細注』第7章4節「ジャイナ教徒の構想するアートマンの考察」、第17章「直接知覚の定義の考察」、第18章「推理の考察」、第20章「相対論の考察」、第23章「外界対象の考察」においてジャイナ教学説が言及されていることをすでに確認済みであるが、それぞれの章に対するこれまでの研究を見直した上で、当該箇所の校訂テキストの作成と翻訳・訳注の作成に取り組んだ。その際、反論者の見解として現れるジャイナ教徒の学説をジャイナ教文献において同定することができるかどうかについても合わせて検討した。また当該年度は、上記の章のうち特に全編がジャイナ教学説の紹介と批判で構成される「ジャイナ教徒の構想するアートマンの考察」章を精読し、テキスト校訂と翻訳の作業を行った。以上のような研究を経て、研究開始当初から取り組んでいたテーマのうち「仏教論理学派が把握していたジャイナ教学説の全体像はどのようなものであったのか。さらにジャイナ教徒が主張する存在論と認識論及び推理論はいかなる関係にあったのか」という問いに関して一定の結論を得ることができた。なお報告者は、2022年10月に行われた第37回ジャイナ教研究会において「仏教論書Tattvasamgraha(-panjika)とジャイナ教徒の関係」というタイトルの口頭発表を行ったが、これは上記の研究の成果の一部である。
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