研究課題/領域番号 |
19K00074
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研究機関 | 筑紫女学園大学 |
研究代表者 |
川尻 洋平 筑紫女学園大学, 文学部, 准教授 (70712206)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 『主宰神の再認識反省的考察注』 / 『アンヴァヤディーピカー』 / ナーターナンダ / シヴァ教 / 南インド / 『主宰神の再認識詳注』 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、『主宰神の再認識反省的考察注』などの南インドで著されたシヴァ教再認識派の註釈文献を精査することを通じて、南インドの注釈文献が著された背景やシヴァ教神学がどのように南インドで受容されていたのかを明らかにすることである。 本年度も、『主宰神の再認識偈』に対する註釈『アンヴァヤディーピカー』について研究を進めた。『アンヴァヤディーピカー』では、しばしばブラフマンが言及されるが、それは、シヴァよりも劣り、静的な原理とみなされるブラフマンではなく、動的なブラフマンであり、再認識派において説かれる所の主宰神シヴァに他ならない。このことは、再認識派文献が、南インド・カルナータカにおいて、シヴァ一元論とブラフマン一元論の統合を図るために利用されていたことを示唆している。 また写本群を精査する中で、『主宰神の再認識反省的考察注』に対してさらに註釈が著されていたこと、ウトパラデーヴァの『主宰神の再認識詳注』の写本(No. 4591)がウッジャインのScindia Oriental Research Instituteに所蔵されていたことが明らかになった。後者は、これまでに報告されてきたような欄外註から回収されるものではなく、独立した写本である点で特筆に値する。当該写本が含む『主宰神の再認識詳注』は、欄外註に発見されていた箇所(1.8.10-2.3.8)に一致することから、新たな断片を提供するものではないとしても、『主宰神の再認識詳注』が確かに写本を通じても伝承されていたことを示している。 これらの成果の一部については、大谷大学(オンライン形式)で開催された日本印度学仏教学会および広島哲学会において研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インドへの渡航が困難である状況に変わりがないことから、タンジョールの『パラートリーシカーラグヴリッティ』写本の校合およびタンジョールとマイソールの写本調査については行えていない。一方で、『パラートリーシカーラグヴリッティ』に対するクリシュナダーサの註釈についてはディプロマティックエディションの作成をほぼ終えた。新たに確認された『主宰神の再認識反省的考察注』に対する註釈について早急に作業を完了させる必要がある。また『アンヴァヤディーピカー』の特徴が徐々に明らかになりつつあり、『主宰神の再認識反省的考察注』とは異なる背景のもとに著されていることを指摘できる。
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今後の研究の推進方策 |
当面、インドへの渡航は困難であることが予想されることから、すでに入手済みの写本のディプロマティックエディションの作成を行う。特に『主宰神の再認識反省的考察注』に対する註釈のディプロマティックエディションの作成を行い、作者不詳の『主宰神の再認識反省的考察注』が著された背景や伝承状況について検討する必要がある。また、『主宰神の再認識反省的考察注』に頻繁に引用され、南インドにおける重要性が指摘されている『パラートリーシカーラグヴリッティ』に対するクリシュナダーサの註釈については、『主宰神の再認識反省的考察注』との関係について検討を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年に延期されていた国際学会World Sanskrit Conferenceが、再度延期され、また2021年9月の日本印度学仏教学会第72回学術大会がオンライン開催になった。これらの出張に予定していた旅費の一部については、次年度に購入予定だった書籍を先行して購入したが、残りは次年度に延期されていた国際学会に参加するための旅費にあてるために使用しなかった。
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