本年度は、『主宰神の再認識反省的考察注』の読解および欠落箇所の補充に役立てるために、新たに発見された『主宰神の再認識反省的考察注』に対する注釈の検討を行った。『主宰神の再認識反省的考察注』写本と同じく、トリヴァンドラムのOriental Research Institute and Manuscripts Library に所蔵されるこの注釈の写本(No. T382)は、マラヤラム文字からデーヴァナーガリーに転写されたものと考えられるが、オリジナルの写本は未確認である。この注釈は、著作意図などを示唆する帰敬偈などもなく、またわずかに『主宰神の再認識偈』の帰敬偈に対する注釈の途中で終わる写本であることもあり、著者や著された背景については不明である。概ね『主宰神の再認識反省的考察注』の理解や解釈から逸脱しないが、『主宰神の再認識反省的考察注』に言及されない典拠不明の引用もあることは、当該注釈の著者の背景を示す可能性がある。 また南インドの写本群を整理する過程において、しばしば『主宰神の再認識反省的考察注』に引用される『パラートリンシカー・ラグヴリッティ』の写本が、トリヴァンドラムに所蔵される写本(No. 2108)の中に新たに確認された。従来、Raghavanに言及される写本(No. 1107-08)の内、一方の写本(No. 1107)は確認されていたが、他方(No. 1108)は所在不明であった。新たに確認された写本は、所在不明であった写本の可能性がある。 これらの成果の一部については、広島哲学会において研究発表を行った。またこれまでに明らかにされていた『アンヴァヤディーピカー』の著者問題や著作背景などについては、オンライン形式で開催された18th World Sanskrit Conferenceで研究発表を行った。
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