研究課題/領域番号 |
19K00077
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
青柳 かおる 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20422496)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イスラーム / 生命倫理 / 同性愛 / 弱者 / 出生前診断 / ロトの民 |
研究実績の概要 |
本研究では主に医療に関するイスラーム文献や報告などを読解し、国内外においてあまり研究の進んでいない、イスラームにおける出生前診断およびそれとつながりのある諸問題を検討する。 出生前診断というテーマは、優生主義や選択的中絶、さらに障害者の権利といった議論とも関連しているので、2020年度は、出生前診断から派生する、弱者、とくに同性愛者の権利という問題について扱った。イスラームにおける同性愛については、前近代におけるイスラーム世界の同性愛を扱ったもの、現代のLGBTのイスラーム教徒が迫害を受けながらも、性的少数者の権利を擁護しようとする活動を明らかにした研究も見られるようになってきた。ただ、国内外におけるこのテーマの研究はまだ少ない状況であり、筆者は議論の土台を作る必要があると考えた。そこで現代の保守的なウラマー(イスラーム法学者)のファトワー(一般信徒の質問に対する法学者の回答)を中心に分析し、イスラームにおける同性愛に対する伝統的な考え方を明らかにした。 多くのイスラーム教徒の支持を得ている伝統的な解釈では、ルート(ロト)の民が神によって滅ぼされたというコーランの文言を根拠に、同性愛は非合法であるとされる。長い間受け継がれてきた同性愛に関する伝統的な解釈を覆すのは容易ではないが、欧米ではゲイのイマーム(モスクの説教師)たちを中心に、新しいコーラン解釈や同性愛者のイスラーム教徒のための活動が始まっている。そこで、先行研究も参照しながらゲイのムスリムたちによる新しいコーラン解釈や同性愛に関するハディース(預言者ムハンマドの言行録)についても検討した。さらに二人のゲイのムスリムの活動を紹介し、さらにユダヤ教、キリスト教の同性愛の議論との比較も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出生前診断に関連する問題として、弱者、マイノリティーの権利についても検討し、研究の範囲を広げることができた。イスラームにおける同性愛の伝統的解釈をコーラン、ハディースから明らかにした上で、ゲイのムスリムたちの新たな解釈や活動を明らかにできた。さらにユダヤ教、キリスト教との比較も行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、出生前診断に関するイスラーム法学者の見解などを分析し、スンナ派のみならずシーア派についても広げていきたい。また弱者の権利の問題、たとえば女性(妻)への暴力や女性の人権といった問題を引き続き取り上げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の中、出張がほとんどなくなり、旅費を使用しなかったため。
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