本研究は、浄土教における物語が動的に展開していったさまを、歴史学や仏教学などの実証的研究の成果を取り入れ、それを宗教哲学の観点から解明することを目指したものである。研究代表者の岩田文昭は、最終年度である2022年度は、その研究成果を一書にまとめることに多くの時間を費やした。この原稿は中央公論新社に提出し、2023年4月末に初校ゲラがあがった。23年夏には中公新書の一冊として刊行される予定である。 この書において、浄土三部経の物語からはじまった浄土思想が善導・法然・聖光・證空・親鸞などを経て展開したさまを、物語の解釈と発生という観点から論じた。さらに、近角常観や手塚治虫作『ブッダ』を取り上げ、現代での新たな物語の発生の意味について考察した。 発表としては、第一に、第142回全国大学国語教育学会東京大会のラウンドテーブル「賢治作品に見るトシとトシ自身のトシ」に参加した。第二に、日本宗教学会第81回学術大会でパネル「吉永進一とは何者か?―その研究の軌跡を問う―」を企画し発表を行った。また「西田天香Workshop」を企画・開催し、西田天香の回心体験と回心論をテーマとした討議を通して、近代日本における宗教体験の物語化に見られる諸相に検討を加えた。 また、『西山上人短篇鈔物集』を電子化し、これをリニューアルした近角常観研究資料サイトにアップした。 研究分担者の末村正代は、2021年度に引き続き、20世紀前半期の北米における日本人仏教者、鈴木大拙や千崎如幻の宗教思想や経典翻訳、文学作品の語りを取り上げ、越境する日本仏教の物語化の過程を考察した。これと関連して、鈴木大拙の戦後コロンビア大学講義の翻訳を担当した。
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