研究課題は、米国福音派の社会的関心および貧困観に関する実証的研究を行うことであったが、当初計画していた米国訪問によるインタビュー調査はコロナ禍によるリスク回避のために渡米を行わなかったために、文献調査に基づく研究とならざるを得なかった。 研究成果は、2022年3月15日に発行された『麗澤大学紀要』第105巻に"「汝らのなかに貧しきものなからん」:米国キリスト教福音派の社会的関心および貧困観に関する基礎的研究"の中に収められている。内容は次の通りである。 章立て:I 諸概念の定義、Ⅱ 歴史的前提、Ⅲ福音派の「社会的関心」と貧困観となっている。取り扱った福音派は、ビリー・グレアム(新福音派)、ロナルド・サイダー(福音派左派)、ジェリー・ファルウェル(宗教右派)および、マーティン・ルーサー・ジュニア(リベラル派)で、リベラル派のキングを扱った理由は、①3者の福音派と同時代に生きたこと、②共通経験としての公民権運動・貧困撲滅運動の中心人物であったこと、③保守・リベラル両極の一極として比較対照を可能にするからである。結論は、神学思想によって貧困観や社会的関心が異なることである。宗教右派および新福音派は、プレ・ミレニアリズムを信奉することから、貧困は個人の回心による罪の贖いによってのみ解決されるという立場であり、社会的関心が相対的に低く貧困対策にあまり関心がない。その一方で、リベラル派や福音派左派は、ポスト・ミレニアリズムを信奉し、個人の救済は、社会改革による社会的罪の贖いによって達成されるため、社会的関心は高く、貧困対策に大きな関心を持つことが、本研究を通して理解された。
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