研究課題/領域番号 |
19K00087
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研究機関 | 国際ファッション専門職大学 |
研究代表者 |
寺戸 淳子 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 准教授 (80311249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宗教学 / ケア / 障害者 / 共生社会 / 市民貢献活動 / 尊厳 / 父性 |
研究実績の概要 |
前年度に続き、コロナ禍の影響で海外調査を進めることができなかったが、遠隔での調査を考えていたバングラデシュのラルシュ共同体の責任者が任期満了のため退任して帰国し、その報告会に参加したことで、非常に豊かな知見を得ることができた。諸宗教宗派(キリスト教、ヒンドゥー、イスラム)に根ざした、各人の心身に刻まれた「祈り」が、人がコロナ禍で「尊厳を生きる」ことを可能にしていた現場の声を聴くことができ、たいへん有益であった。 本年度は昨年度の研究を踏まえて、この「尊厳」という主題に注目し、研究を進めた。さらに、「尊厳」は、キリスト教文化圏において構想されてきた「市民性」における「権利」とも、キリスト教文化圏において構想されてきた「宗教性」における「聖性」とも、異なる「価値」を「遂行する」(そもそも言語記号学的に措定される「価値」は遂行的(パフォーマティブ」なものだが)、「市民性」と「宗教性」をつなぐものではないかという仮説のもとに、「遂行の場」としての「家庭(特に、キリスト教カトリックにおいて20世紀に信徒たちの日常の中から省察の要請が高まった、「神学的概念」および信仰実践の場として「正当に評価される」対象としての)」の研究を重点的に進めた。これは、ラルシュ共同体運動が自らの共同体を「家庭」になぞらえていることの意義の探求を前進させるものと考えられる。また特に、「家庭の霊性」における「夫・父」性の位置づけと意義・役割の研究に重点を置いた。これは、(第二次世界大戦から帰還した)「夫・父」が、女性性(市場経済から分離された聖域とその担い手)のもとに把握されてきた「ケア」の世界に、自らの居場所を見いだすことを促されると同時に求める様子が認められ、その重要性が推察されたためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度も海外調査を行うことができなかったため、本研究課題を構想した時点での方向性を大きく変える必要に迫られた。特に、アジアの共同体を調査することで「欧米主導の議論には見られなかった価値観と実践による見直しを経た、「非対称な他者」との肯定的な関係の構築に寄与するケア論」を考察するという点については、「アジア」以外の参照点を、上記の研究領域に求めることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
海外調査が行えなかった場合も実現可能な研究として、20世紀フランスで信徒たちの要請に応える形で展開した「家庭の霊性」における「夫・父」性の位置づけと意義・役割の研究に着手している。上記「研究実績」に記した変更によって、「家庭」をめぐる神学と霊性の研究を進める中で、(特に第二次世界大戦から帰還した)「夫・父」が、女性性(市場経済から分離された聖域とその担い手)のもとに把握されてきた「ケア」の世界に、自らの居場所を見いだすことを促されると同時に求める様子が認められた。その研究は、「欧米主導の議論には見られなかった価値観と実践による見直しを経た、「非対称な他者」との肯定的な関係の構築に寄与するケア論」の考察を当初構想していたときには後景にあった、「欧米主導の議論に対する、欧米文化圏内に展開する、対抗的“生活世界”」を対象とするものであり、課題全体において重要な位置を占めるものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も海外調査ができず、国内での出張調査も控えたため、研究予算の多くを占めていた旅費分が使用されなかった。このため、海外への研究成果発信を目的に、本年度の成果論文の英訳を行った。引き続き、状況が許せば現地調査ができるよう準備を整えつつ、研究テーマの展開によって必要となった資料の収集を行っていく。
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