本研究「現代エジプトにおけるクルアーン解釈とその社会的受容ーカイロ大学とアズハル大学ー」はコロナ禍により一年間延長することになったが、最終年度において以下のような成果を出すことができた。2022年9月22日に『イスラーム・ジェンダー・スタディーズ 第9巻 労働の理念と実態 』報告会にて「イスラームの聖典に読む「労働」とジェンダー~クルアーンとその解釈の可能性~」について報告を行った。(アメリカで研究中であったため、代読による報告発表であった。)その後、この内容をふまえて論文「イスラームの聖典に読む「労働」とジェンダー~クルアーンとその解釈の可能性~」を執筆し、岩崎えり奈・岡戸真幸編著『イスラーム・ジェンダー・スタディーズ 第9巻 労働の理念と実態』として2023年度中に刊行される予定である。 内容を要約すると以下のとおりである。クルアーンは明白に女性が家の外で労働をすることを否定していはいない。ただいくつかの章句が暗にそれを避けるよう指示しているようにも読める内容を含んでいる。そのため、古典期から現代にいたるまで、女性が家の外で労働することがムスリム世界では否定的にとらえられることになってきた。そこで本論考では、現代エジプトの代表的なクルアーン解釈者シャアラーウィーをとりあげて分析し、現代的解釈の可能性を検討することとした。シャアラーウィーはアズハル大学出身のウラマーであるが、テレビなどで活躍し、1970~1990年代において国民的支持をえた学者である。シャアラーウィーのタフスィール(クルアーン解釈書)を分析することで、シャアラーウィーのタフスィールでは未だに女性が家庭において家事・育児をして夫を支え、夫のみが家の外で労働をするという価値観があることが明らかになった。
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