研究課題/領域番号 |
19K00095
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研究機関 | 大阪国際大学 |
研究代表者 |
三木 英 大阪国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60199974)
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研究分担者 |
沼尻 正之 追手門学院大学, 地域創造学部, 教授 (10300302)
岡尾 将秀 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 研究員 (90773672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベトナム仏教寺院 / 在日ムスリム / 協調関係 / 敵対的関係 / 平行的関係 / 民族 / 階層 / 出身地域 |
研究実績の概要 |
近年国内において急増しているベトナム出身者に照準を合わせ、その信仰の現場である国内ベトナム仏教寺院をフィールドに実施した質的調査が、2019年度の研究の主なるところである。聴き取りや参与観察によって質的データの集積に努めたが、そこから見えてきたのは、在日ベトナム人の間に構築された複合的な社会関係であった。 ホスト社会の人間は概してニューカマーを、たとえば「保護されるべき弱者」といったように、一面的に認識しがちである。しかしそれは単純に過ぎる。ニューカマーが祖国において属していた階層、居住していた地域、就いていた職業等々が来日後の彼らを分節化するファクターになりうることが、調査によって明らかになってきたのである。そしてニューカマーたち(ここでは在日ベトナム人)の間に敵対的な社会関係が浮上し、あるいは協調的関係、また交差することのない関係性までもが形成されてゆく。 在日ムスリムの集まるマスジドをフィールドにした調査も実施したが、そこからも彼らの間に単純ならざる社会関係の形成されていることが確認された。国内のマスジドはパキスタン、バングラデシュ、スリランカ、インドネシア出身者等が集まり多国籍であるが、彼らのナショナリティに依拠した輪郭明瞭なグルーピングが成立しているのである。さらに同じ国の出身者であっても、その国が多民族国家である場合、その国における民族間関係が来日後も影響力を保っている。 19年度は以上のようなニューカマー間の社会関係に接近したのであった。ニューカマーの総数が少ない場合、彼らの間には――マイノリティの自覚のもと相互扶助的になって――協調的な社会関係が形成されると捉えてよい。しかしニューカマー人口の増加は彼らの社会関係を複雑化する。在留外国人増加が予想される時代に、彼らのなかで形成される社会関係に着目することは、ホスト社会にとって極めて意義深いものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画は在日ベトナム人・仏教寺院を主なる調査対象としてイメージしていたため、不測の事態――これについては後述する――に種々直面することになったとはいえ、及第点に近い調査が行えている。兵庫・大阪の在日ベトナム人グループそして仏教寺院には頻繁に足を運ぶことができた。さらに東京・埼玉を拠点に活動する在日ベトナム人僧侶との間にラポールを形成できたことで、そこから有益な情報を得ることができるようになったことも、19年度の収穫であった。 また兵庫・大阪に暮らすムスリムとの連絡を密にして、数度に亘るフィールドワークも実施してきた。この地域に生活するムスリムの総数は増加傾向にあり、これまでに見られなかったような活動(たとえばイスラム教徒女性を中心とした子弟教育についての勉強会開催)も確認できるようになってきている。教徒人口の増加が彼らを勇気づけていると推測できるところである。 以上のように、近年に見られる新たな動向を、本研究は把握することができているといってよい。以後弛まず研究を進めてゆく所存であるが、現時点でフィールドが兵庫・大阪にほぼ限られるところが、気になるところである。本来であればニューカマー人口が一層に多い首都圏、逆に人口の少ない地方部でもフィールドワークを実施して、広範囲からデータを蒐集すべきところであった。 それが果たせていない理由は、いうまでもなく新型コロナウィルス問題である。遠征してフィールドワークを行う機会がほぼ消滅し、さらには(たとえ兵庫・大阪地域に居住しているインフォーマントであっても)インタヴュー依頼に応じていただけなくなったということである。 収束しつつある情勢を見守りつつ、調査のための現実的計画を立案している昨今である。仮に情勢が好転しないとしても、地道に、粘り強く、「三密」を避けてのインタヴューや参与観察による調査を続ける以外にないと心得ている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、勤務校は所属教員に対し、近隣を超える出張を許可していない。この制限が夏になれば外されるのかどうかは、不確定である。とはいえ制限解除を予想した上で、あらためて(昨年度分をも挽回すべく)調査計画を練り直す。具体的には首都圏・地方部へ出張しての調査であるが、加えて(本研究の計画調書にも記していたように)東アジアにおける移民受け入れの「先進国」たる大韓民国及び台湾での調査が実現可能となることを、心底から願うものである。 とはいえ新型コロナウィルスという脅威は未知であるゆえに、上記希望が実現しえない場合も想定しておかねばならないだろう。その場合に取りうる方策は、兵庫・大阪の(近隣の)フィールドへの日参と、それによるインフォーマントとのラポール形成以外にないだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月及び3月は、当初予定では、兵庫・大阪ではない遠隔地への出張を行ってデータ蒐集に勤しむ予定であった。ところが、予想もしなかった新型コロナウィルス問題が出来し、遠隔地出張はおろか、近隣のフィールドにも出向くことが――調査者による外出自粛に加えてインフォーマントとの間に「三密」な関係を作ることは遠慮すべきであったため――ほとんど不可能であった。 そのため計画していた使用(=出張費として使用)でなく物品購入にシフトすることとなり、目算を誤ることになったのであった。さらに付記すれば、使用途の転換を年度末に近づいて行うことになったため、十二分に検討した上での物品購入とすることができなかったことも、理由として認識している。 以上の理由から、次年度使用額が沼尻、岡尾という二人の共同研究者に発生したものである。前者が14,594円、後者は57円であり、両者ともに消耗品費としてそれを充ててもらうことになるだろう。
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