研究課題/領域番号 |
19K00095
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研究機関 | 大阪国際大学 |
研究代表者 |
三木 英 大阪国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60199974)
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研究分担者 |
沼尻 正之 追手門学院大学, 地域創造学部, 教授 (10300302) [辞退]
岡尾 将秀 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (90773672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スリランカ仏教 / ベトナム仏教 / イスラーム / ブラジル福音主義キリスト教 |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルス感染拡大という状況を受け、調査出張先を(研究分担者である岡尾による)静岡県富士宮市と(代表者である三木による)兵庫・大阪・滋賀に絞り、フィールドワークに取り組んだ2021年度であった。 富士宮市ではスリランカ仏教寺院に参集する在日スリランカ人や上座仏教に関心を寄せる日本人たちにアプローチし、兵庫・大阪・滋賀ではベトナム仏教寺院を中心とする在日ベトナム人コミュニティ、マスジドを礼拝のために訪れるムスリムたちのコミュニティ、福音主義的キリスト教会を核に形成されている日系ブラジル人コミュニティに調査の足跡を残した。昨今の日本で目立って活動的と判断されるニューカマー宗教は上記のスリランカ仏教・ベトナム仏教・イスラーム・ブラジル福音主義キリスト教であり、感染拡大に起因する行動制限を甘受せざるを得なかったとはいえ、本研究の目的にとって不足のないデータ蓄積を果たすことができたと確信している。 成果として特記すべき「発見」は①ベトナム仏教寺院を定住ベトナム人が精神的支えとしていることはもちろんであるが、それ以上に技能実習生や留学生として滞日しているベトナム人が寺と密な関係を築いていること、②マスジドが国内に数多く開堂されるにつれ、それらマスジドが(例えばインドネシア系のマスジド、次世代教育に力点を置くマスジド、イスラーム布教を念頭に活動するマスジド等のように)個性化してきていること、③日系ブラジル人が「ブラジルらしさ」を捨て去らず、その「らしさ」を福音主義教会で発揮してアイデンティティの保存に努めようとしていること、といったことである。 こうしたことから、ニューカマーにとって彼らの宗教施設の不可欠であることは明らかで、彼らが自身のアイデンティティを確認し、その上で「異郷に暮らすマイノリティ」としての誇りを感じる場として、宗教施設に意義を見出していることが知られるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画ではフィールドは日本各地、および海外にも求められることになっていた。しかしながら新型コロナウィルス感染拡大のため、フィールドを絞らざるを得なくなったことは誤算であった。もちろん許容される範囲内で調査は怠りなく遂行しており、蓄積してきたデータの質・量ともに不足は無しと自負している。とはいえ、絞られたフィールド即ち近畿地方でのデータによって日本社会全体を推し測ることに、若干の躊躇いを覚える。これが、「順調」あるいは「計画以上」のどちらでもない区分を採った理由である。 また研究代表者にとって長年に亘る研究パートナーであり、本研究計画でも分担者として重要な役割を担っていた追手門学院大学教授・沼尻正之氏の2021年6月の急逝が、研究の進捗にマイナスに作用したことは否定しようもない。沼尻氏そして研究代表者は毎年度、夏季休暇期間を利用してインテンシブな調査を行ってきており、21年度夏も詳細な計画を立案済みで、あとは実行に移すのを待つばかりであった。それが叶わぬこととなってしまったことで、計画に支障が出ることになったということである。 もちろん、フィールドを絞ることになっても、大切な研究パートナーを失っても、学問的に十二分に価値のある研究成果を世に問う自信を代表者は持つ。また、長年の畏友のためにもそうしなければならないと心に強く誓っていることを付記しておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ニューカマーたちの、その宗教を核として形成される社会関係の重要であるという事実を、ホスト社会・日本は未だ知らずにいるだろう。そしてそれについて知らないままで「共生」を謳うことの拙速であることを、本研究はこれまでの研究成果を根拠として感じ始めている。だからこそ22年度は、ニューカマーたちの形成する人間関係の探求に一層に精進するのである。それにあたっての具体的な課題は以下の四つである。 ①在日ベトナム人社会の人間関係の探求:ベトナム・コミュニティにおける仏教信者とカトリック信者との関係を軸に、ベトナム本土の出身地域や年齢層、在日キャリア等々のファクターを組み込んで考察する。 ②在日ムスリム社会の人間関係の探求:ナショナリティ、職業、経済状況等の差異に基づくムスリムのグルーピングを試みる。同時にムスリム第二世代の活動に着眼し、日本人とムスリムとの間に築かれる関係を考察する。 ③在日ブラジル人社会の人間関係の探求:所属教会(福音主義、カトリック、日本宗教他)による違い、そして移民第一世代と第二世代・第三世代の意識・行動の違いに着目する。 ④在日スリランカ人と日本人上座仏教信者の形成する人間関係の探求:上座仏教に魅かれる日本人は、自らニューカマーに接近しようとしている人々である。その日本人の動向に焦点を合わせ、日本人とニューカマーとの間の宗教を媒介とした関係性を浮き彫りにする。 これらの探求により、「在留外国人」として一括りにされがちな人々の、一括りにすることのできない実態が浮き彫りになってくるはずである。即ち彼らにおける「多様性diversity」が明らかとなるだろう。日本社会がニューカマーたちとの「共生」を謳うなら、日本は彼らの、国籍だけではない多様性を考慮しなければならない。本研究は多様なニューカマーたちとの、通り一遍ではない関係の現状とその可能性について考察するのである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大状況を受け、当初研究計画に変更を施すことが余儀なくされた。その変更点は、具体的には、調査地の(海外を含む)遠隔地から(研究代表者・分担者の居住地の)近辺への変更であって、このために旅費支出が当初計画からの減額となったものである。 また研究を主導すべき立場にあった研究分担者の急逝により、当該人物が担うべき研究に要する金額が宙に浮くこととなったことも大きな理由である。研究組織が三人体制から二人体制に変わったからといって、計画通り遂行中であった研究活動に即しての予算変更が十全に果たせなかった。 上記を考慮し、補助期間延長の申請を行うことを念頭に、四年目である22年度の研究活動に必要な経費を確保する必要が生じた。22年度は使用の許された補助金を有効に活用し、貴重な学術的成果を挙げるつもりである。
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