昨年度は一昨年度末の日本ビザンツ学会における研究発表「テクラからエウドキアへ―殉教者キュプリアノス伝と古代末期の女性のエージェンシー」(奈良大学:Zoom開催)をさらに発展させる形で9月にキリスト教史学会において研究発表「皇妃エウドキアと『殉教者キュプリアノス伝』-古代末期の女性エージェンシーの変容」(南山大学:Zoom開催)を行った。二つの発表は、女性の使徒テクラを理想化した少女ユースタに敗れて改宗する魔術師キュプリアノスを主人公とする皇妃エウドキアの作品を分析したものである。 先行研究として参考にしたBrian Sowersはユースタにエウドキアのエージェンシーを見出そうとしているが、報告者足立はユースタはあくまでエウドキアの理想目標であり、現実の彼女の人生はむしろ魔術師キュプリアノスの変転に投影されているのではないかと提唱した。この報告は、現在他研究者との共同執筆によるキリスト教女性に関する著作に共著論文として掲載、公開する予定である。 また、この分析過程の延長上に、現在エウドキアのもうひとつの作品『ホメロス風聖書物語』の分析を進め、本年6月に日本西洋古典学会(獨協大学)において再度研究発表し、論文として執筆する予定である。以上の研究は、本研究前半におけるローマの属州地域共同体の女性指導者の実態を碑文により裏付けた上に、女性使徒テクラをこうした伝統的地域共同体女性から、神の前の個として目覚めた新しいキリスト教共同体の女性指導者への変容を遂げた女性使徒として捉えた研究の延長上に構想されたものである。
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