本研究課題は、当初の計画では昨年度に終了する予定であったが、諸般の事情により一年の延長を申請した。このため、本年度は残された期間と予算とに照らし、上海博物簡蔵戦国楚竹書『鬼神之明』および同『恒先』について、本研究計画において達成されたこれまでの成果を改めて整理し、学術論文としての公開を目指し再検討を加えた。 『鬼神之明』については、昨年度の「懐疑と信仰─上海博物館蔵戦楚竹書『鬼神之明』に関する考察─」と題する口頭発表(日本中国学会第73回大会)の成果を踏まえ、これを更に発展・深化させるために、研究手法の再検討と重要資料の選定とを行った。その結果、当資料の思想を解明するには、これまでに指摘される『墨子』との関係に視野を限定することなく、古代中国の運命論や宿命論を示すとされる記載をも視野に入れる必要があり、また、運命論や宿命論という理解を超えて、それら記載の思想上の問題意識と特徴とを改めて捉え直す必要がある、との知見を得た。つまり、運命論や宿命論といっても、それぞれの記載は様々な文脈を具えており、それら文脈の多様性を捉えることが、『鬼神之明』の思想を捉えその思想史的位置を見定めるためにも必要である、と考えられる。こうした知見に基づき、当資料の分析に用いる資料を改めて検討し、上海博物簡蔵戦国楚竹書の『鬼神之明』以外の資料や、清華大学蔵戦国楚竹簡の資料等にも考証対象を広げ、重要資料の選定を進めた。一方、上海博物簡蔵戦国楚竹書『恒先』については、馬王堆漢墓帛書老子乙本巻前古佚書、および『管子』のいわゆる道家系四篇等を重要文献と見なし、その思想内容の解明に着手した。
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