申請者の長期的目標は、イタリア・ルネサンス期の政治思想を構造的に理解し、その特徴を浮き彫りにすることである。この見地から本研究では、マキァヴェッリとグィッチァルディーニという知的巨人の政治理論に焦点を合わせ、前者が開拓した新しい政治学的視座に対するグィッチァルディーニの知的対応を明確化することを目的とした。 この観点から明らかとなったのは、第一に、マキアヴェッリの民主政に対するグィッチャルディーニの貴族主義的な政治理論であり、それは基本的にはフィレンツェで民主政を取りつつも貴族政的な原理を導入することであった。第二に、共和国内のこの新しい政治理解は、共和国の対外的な支配権拡大政策への制限をもたらしたことである。それは、勢力均衡に基づくギリシア的方策であり、このアプローチは、モンテスキューらに見られるように、後の啓蒙時代における有力な方針の一つとなる。本研究の成果の第三は、マキアヴェッリの政治理論がモンテスキューやルソーなどの啓蒙の思想家に大きなインパクトを与えていることを明確化したことである。そのため、どの思想家にどのような知的インパクトを与えたか、あるいは、後世の思想家たちがマキアヴェッリの理論や政策をいかに変容させたかを明らかにすることが今後の課題となる。この作業は、申請者の長期的目標、すなわち、ルネサンス期の政治思想の包括的理解に直結するものともなる。 さらに言えば、本研究の成果の一つは、マキアヴェッリの『ディスコルシ』(全三巻)の邦訳であり、第一巻については23年度に公刊の見通しである。
|