研究課題/領域番号 |
19K00100
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
廣瀬 浩司 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90262089)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | メルロ=ポンティ / 制度 / 現象学 / シモンドン / フーコー |
研究実績の概要 |
多文化社会と安易に言われる現代において、文化と自然の関係を思想史的にどのように考え直せばよいのか。この問題は現代社会において焦眉の問題として、根底から考え直されている。この点に関して現象学者メルロ=ポンティは、すでに1954年度に「制度化」という概念を提唱した。本研究では、その現代的な拡張をめざすべく、身体・文化芸術・自然という三つの視点から、多様化する現代に意義をもつ概念として、この「制度化」の概念を展開することをめざす。 そのために「制度のミクロ現象学」という視点を採用し、現代の心理学、シモンドン、フーコーの哲学、身体イメージとシンボル製作の関係、「無意識」と自然との関係などを検討していく。 これらの主題について最新の内外の文献、映像資料などを集中的に購入・分析することによって、諸文化におけるミクロなダイナミズムを内側から分析する視点を確立し、現代の文化と自然の総体の「危機」に対する処方箋を描くことが本研究の最終目標である。 本年度は、とりわけシモンドンとフーコーを参照しながら、「結晶化」の概念の身体論的・文学的、さらには社会論的な意義を論じた論文をまとめる(論文受領済)とともに、関連の研究会で発表した。また「結晶化」と「意味」の概念を結合させて、メルロ=ポンティおよびシモンドンにおける「記号=表徴」の概念について研究した。これはメルロ=ポンティ『シーニュ』の翻訳、訳注、解説のかたちで 2020年度に公開予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)制度化概念が具体的かつ存在論的に練り上げられているのは『シーニュ』という論文集である。その重要性が強く自覚されたため、本年度は本論文集を文献学的かつ現代的に再検討するため、主論文を翻訳し、草稿研究など、最新の研究成果をとりいれ、詳細な解読をおこなう作業を集中的におこなった。そのために必要な文献などを集中的に収集し、多くの学問的成果をあげることができた。これらの成果の一部は、筑摩書房のちくま学芸文庫より、『精髄 シーニュ』(課題)として2020年度に刊行を準備中である。 2)これを学問的に深めるにあたり、言語の文学的使用や舞踊の現象学を深める必要があり、やや研究を先取りし、「言語の文学的使用」についての講義における文学者ヴァレリーの思想の「錯綜体」の概念を「制度化」概念やシモンドンの「結晶化」概念、さらにはフーコーの文学論と対峙させる作業を進捗させた。この成果の一部は" L’implexe comme cristallisation de l’impossible -- a partir de la lecture merleaupontienne de Valery" として、『仏語仏文学研究』として刊行される予定である(原稿提出済)。 3)またこの過程で東京大学教授塚本昌則教授、早稲田大学鈴木雅雄氏との研究交流の必要が生じ、東京大学で研究会をおこない、「メルロ=ポンティと文学ーー垂直的世界の炸裂と凝集」という発表をおこない、無意識と文化・自然についての考察をおこなった。この研究会の議論は、近日水声社ホームページで公表予定である。 これらの研究は、計画の3年度めに予定していた「無意識と自然」についての研究に踏み込むものであるが、研究の方向性には大きな修正はなく、むしろ研究の方向性の意義を厳密化するのに有益であった。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究は「文化的世界の意味の生成と増幅の追求」と題し、現代芸術などを手がかりに、現代における文化的な世界の意味の生成と増幅の追求をおこなうことである。完成された芸術作品としてのみならず、その「制作プロセス」を突き動かしている身体イメージ、そしてその創発性に注目する。本研究では、ダンスや舞踏などの身体芸術における、イメージ的な意味の生成を追求する。 そのため国内外で調査研究も行う予定であったが、コロナウィルスの蔓延にともない、とりわけフランスにおける草稿調査は非常に困難であることが予想される。そのばあい、草稿研究を継続するため、近年刊行された” Probleme de la parole” の文献学的研究に比重を移し、身体論を基本として、言語においてどのような創発性がみられるかを研究する予定である。 この講義は「制度化」講義を直接に準備するものであり、本研究の深化のためには避けがたい講義である。問題になるのは、言語学的な知見が、言語の創発性と歴史性、すなわち「言語的な制度化」とどのようにかかわっているか、ということである。言語学者ソシュールの読解が具体的に展開されているのは、この講義のみであり、メルロ=ポンティ研究の飛躍的な発展にも結び付くであろう。 また、メルロ=ポンティはさらにこれをプルーストの作品分析に結びつけており、これは後年の現代の文学者クロード・シモンの読解にもつながるので、当初の目的であった、現代芸術における「文化的世界の意味の生成と増幅の追求」の枠内で研究するのにふさわしい研究対象であるとおもわれる。
|