研究課題/領域番号 |
19K00104
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
三浦 要 金沢大学, 人間科学系, 教授 (20222317)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヘラクレイトス / エンペドクレス / パルメニデス |
研究実績の概要 |
今年度は,ヘラクレイトス(昨年度,十分に扱うことができなかった),エンペドクレス,そしてパルメニデスの思索における宗教的心性を中心に考察した。ヘラクレイトスについては,特に「不死なる者が死すべき者,死すべき者が不死なる者」という言明(「断片」62DK)とその背景の「反対者の同一性」の原理を,エンペドクレスと対比しつつ検討した。この言明は,不死なる神と可死的人間という伝統的な二分法に即して捉える限りその真意を理解することは困難である。ヘラクレイトスにとっての神は,言うまでもなく擬人的神ではなく,むしろ現象世界におけるあらゆる種類の反対関係を,その都度統一を与えることで支配している原理そのものであり,可死的人間やその魂(たとえ「死」により身体から魂が解放されたとしても)と同定される余地はない。彼より後のいわゆるエンペドクレスによれば,個別性を保持しつつ輪廻転生するダイモーン(神的起源を有する魂)は,禁忌を守り清浄な生を送ることで「神」となるとされていたが,これに対してヘラクレイトスは魂の不死性と転生を認めていたとは言いがたく,オルペウス教やピュタゴラス派の唱える魂転生説を信奉していたわけではない。先の言明も,「生と死,覚醒と眠り,若さと老い,これは同じものである」という別の言明(「断片」88DK)と併せて解釈する必要があり,つまりそれは,エンペドクレスとは異なり,神霊(ダイモーン)の通時的転生でなく,むしろこの生における魂の諸状態の共時的な対立・拮抗関係を語るものである。またエレアのパルメニデスについては,その哲学詩のモチーフやイメージからシャーマン的冥界行(神秘的宗教的体験)が物語られていると解釈されることがある。しかし,実際には,彼は伝統的な神々の召喚を,彼自身の思索の真理性付与と強化の方策としているのであり,エンペドクレスにおけるような魂の遍歴を見て取ることは困難である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の考察対象はパルメニデスといわゆる新イオニア派のエンペドクレスとアナクサゴラスで,おおむね彼らについての検討は終わったが,ただ,このうちアナクサゴラスにおける宗教的心性についてはまだ若干検討すべき点が残っているため,全体としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の計画に沿って研究を進めていく。具体的には,次年度は,残っていたアナクサゴラスについての検討を終えるとともに,多元論の中でも最も合理的な機械論的原子論においてもなお「神」が語られることの意味,そして原子論者における宗教的心性を,文献読解を通じて考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた資料収集のための国内出張がコロナ禍のために実施できず,また,発注していた複数の洋書が刊行遅延となり年度内に納品が困難となったことなどにより,次年度使用額が生じた。出張については次年度実施する予定である。
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備考 |
海外雑誌論文紹介,『古代哲学研究(Methodos)』第52号,p.44
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