助成を受けた過去4年間の作業で、申請者に取ってスローターダイクの思想、とりわけ『球体圏』とその周辺の著作群の輪郭については、以前よりも相当明確になり、また申請した研究主題である、ハイデガーの「世界内存在」と、スローターダイクの「球体圏」としての世界については、かなり明確な見通しを得たと考えている。期間中、助成以前から続けていた岩波書店の『フロイト全集』完結に向けた作業が継続していたこと、二年目から新型コロナ肺炎の蔓延で、当初、予定していた渡欧を断念せざるを得ず、研究の実施形態はかなり変更を余儀なくされた。ただし、その分、スローターダイクが極めて博学で引用される文献などの確認のために、研究費を書籍購入に充てることができた。 期間内に公刊したものとしては、助成2年目に発表した「さまよえる水晶宮」 『思想』(岩波書店、2020年6月号所収,「思想の言葉」)と、最終年度にあたる4年目、22年度に発表した「歴史の終わった後に」『図書』(岩波書店、2022年6月号所収)の2点にとどまった。 期間全体を通じて、スローターダイクの著作のデータ化と繙読を続けたが、最終年度に当たる、22年度は、上記のうちの「歴史の終わった後に」のみで、そのほか具体的な形での公刊物はなかった。ただし、この年は、関連する主題での出版の可能性について、複数の出版社と交渉する中で、最終的にひとつの出版社から、本研究課題に関係するスローターダイクの著作としては、極めて重要なものと言える『資本の内部空間の中で』(2005年)の翻訳出版の合意を得ることができた。すでにドイツの原著出版社との日本語版の出版元とは、代理店を介して契約も完了している。翻訳の作業は22年度中に開始し、23年5月の段階で約半分まで訳し終え、解説を付して24年度中に刊行を予定している。
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