研究課題/領域番号 |
19K00106
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
長 志珠絵 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30271399)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エゴドキュメント論 / 神戸基地 / 女性軍属 / 労働省婦人少年局 |
研究実績の概要 |
今年度もコロナ禍のため当初の計画と異なり、関係者のインタビューや海外調査等によって研究を進めることはできなかった。またアウトプットについても国際シンポジウム等は中止延期となった。このため改めて、主題の神戸基地の女性軍属が残した私的手紙をエゴ・ドキュメントとしてとらえ、読み解く作業をめぐって前年度の作業に引き続いての、英文翻訳のブラッシュアップをはかるとともに、エゴ・ドキュメント論の社会思想史的な広がりを見通す作業をすすめた。占領期の前提としての総力戦下での民間人の動向を視野にいれる一方で、特に、占領期の日米女性政策が人的にも交差する場としての、労働省婦人少年局の存在に注目し、国内を中心に、その関係資料を渉猟した。申請者はかつてこれらのアーカイブ を米国プランゲ文庫寄贈のコレクションによって一定量を収集していたが、あらためて日本側の女性政策とその思想を検証する作業をすすめた。 旧労働省婦人少年局の占領期資料は、同局が女性政策としての女性労働という新たな思想性を伴う領域を発見し、積極的に社会への広報活動を行なっていたため、ポスターやリーフレット、紙芝居などモノ資料として豊富な点もその特徴である、また人的思想的には戦間期の米国ニューディール政策や米国女性局との占領軍軍属女性たちを介した直接の関係を持つ。これらをアーカイブ論、ポスト戦争後としての、女性の民主化をめぐる新たな思想潮流としての再検討を進めた。原稿としてのアウトプットとしても進み、査読を経て掲載決定の論考の初稿が出ている段階である。他方、社会的な活動としては、新たな高校歴史教科書「歴史総合」をめぐるシンポジウムでのコメントなどもつとめた。なお翻訳および史料読解としての出版物成果は次年度を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のためインタビューや海外調査他、口頭のアウトプット、対面の議論による意見交換の機会などは制限を余儀なくされたが、国内を中心に、その関係資料の渉猟をすすめることで、全体像としての占領期の、特に20世紀的主題かつ、ポスト戦争の段階での女性政策とその思想性の背景が、異文化交流として把握できること、またそれらの交流の産物としての女性労働をめぐる思想と行政による展開・その限界といった具体例や論点を深めることができた。他方、こうした主題に応じてどのような歴史資料を思想史社会史的な素材として扱うことが可能か、という点で、占領期のエゴドキュメントを地域やジェンダー、民族問題に即して読解していくという作業にとどまらず、日米占領期の女性登用に関わって、ポスターやリーフレット、紙芝居などのモノ資料を収集、検討することができたことは重要な成果であった。なお神戸基地女性軍属による故郷への手紙とその翻訳および史料読解としての出版物成果は次年度を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるため、神戸基地女性軍属による故郷への手紙とその翻訳および史料読解としての出版とその準備のために補足調査を予定している。また全体に、今季の科研年度で渉猟してきた資料について改めて精査をすすめる。その観点としては改めて占領期が「戦後」であったことを近年の研究史をふまえて注目したい。つまりそれは、総力戦下での戦時動員を近代合理主義のいきついた地点としてとらえるという視点であり、しかし同時に、「性差」という観点からは、近代が構築した社会秩序としての「性差」をも平準化するという矛盾をもたらすこと、このため、ポスト戦争としての占領期とは、「正常化」バイヤスの磁場がすすむこと、という構造と動態のはざまとして占領期をとらえ、女性ジェンダーの再構築に向けた解放とせめぎあいの痕跡としてこれ等のテキストを読み解き、再定位をすすめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍購入の際の入力にミスがあったため 1000円以内でもあるため次年度送りとした。
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