研究課題/領域番号 |
19K00117
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
志野 好伸 明治大学, 文学部, 専任教授 (50345237)
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研究分担者 |
ラム ウィンカン (林永強) 獨協大学, 国際教養学部, 准教授 (90636573)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 張東ソン / 植民地 / 人生哲学 / 本体論 / 全体主義 |
研究実績の概要 |
中国における植民地期の思想の一例として、張東ソン(くさかんむりに孫)の思想をとりあげ、「張東ソンにとっての中国思想」(Minerva明治大学文学部哲学専攻論集、第4号、2022)を執筆した。 本論文は、2021年度にZoomを用いて行った東アジア哲学レクチャーシリーズでの発表をもとにしたものである。 本論文で、張東ソンの関心が認識論から知識社会学に移り、伝統的な中国思想の特徴について積極的にとりあげるようになったのは、1930年代の日本の侵略をきっかけとし、民族復興という政治的意図を研究にも反映させたことによることを、張耀南らの先行研究に依拠しながら論証した。張東ソンは、形式論理や数理論理ではなく、形而上学的論理や社会政治思想の論理が中国では発達したと主張し、これら後者の二つの論理をもとに、民族「一体」を引き受ける個人による侵略への抵抗の思想を、中国の伝統思想に見出した。すなわち、形而上学的論理から個人(小我)と民族(大我)の一体性がもたらされ、社会政治思想の論理から抵抗の姿勢を導いたのである。「現代の中国はなぜ孔子を必要とするのか」という1935年の論文で孔子を再評価したのも、満州国や国民党らの孔子崇拝の動きに対抗するという政治的目的ももちつつ、抵抗する「健全な主体」の確立のために、孔子の思想を利用しようとするものであった。「健全な主体」としての個人を民族に埋没させることに警戒し、中国の伝統的な修養論を、西洋の民主制に接ぎ木しようとした張東ソンの思想は、同時期の熊十力や馮友蘭らと比較しても特徴あるものであり、植民地期の中国の思想として再評価に値するものであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大学での教育・用務などに費やす時間が多く、研究に対して十分な時間を確保することができなかった。『新原人』『新原道』などいわゆる貞元六書や『南渡集』など、1930年代から40年代にかけて馮友蘭が著した著作群などをとりあげる予定であったが、十分な分析が進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
近代以降の東アジアにおける哲学受容の流れの中で、1930年代の日本の植民地支配がどのような影響を思想的にもたらしたのかを多角的に分析し、著書にまとめる予定である。 また、朝鮮半島の事例について、朴鐘鴻の思想をとりあげる計画であったが、そちらにもとりかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により、調査旅行費などが使用できず、研究の計画に変更が生じた。今年度は、調査旅行も実施し、研究に必要な参考資料などの整備につとめる。
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