最終年度は、日本がアジア諸地域を植民地化していた時期の東アジアの哲学者の言説について分析を進めた。中国では馮友蘭や、張東ソン(くさかんむりに孫)、日本では西田幾多郎をはじめ、京都学派の面々、朝鮮では朴鐘鴻などを対象とした。ハイデガーに対する批判など共通する文脈を踏まえつつ、緊迫する政治的状況を背景とした当時の哲学者たちの思想的格闘について読解した。 研究期間全体を通して、(1)現象学の受容という観点から、西田および、日本に留学して京都学派から影響を受けた台湾出身の哲学者の洪耀勲や曾天従の言説を紹介したこと、(2)それまで西洋由来の哲学を研究していた中国大陸の張東ソン、金岳霖、沈有鼎らが、日本による侵略を受けて、1930年代に中国の哲学へも関心を寄せ始め、それぞれ西洋哲学と異なる中国哲学の特徴を描き出そうとしていたことを明らかにした。とりわけ張東ソンが、小我と大我という伝統的な概念を用い、ファシズム的全体主義との違いに注意を配りつつ、個人と民族の関係を捉え直していたことを明らかにした。これらの成果を『何処から何処へ―現象学の異境的展開』、『東アジアにおける哲学の生成と発展』などの共著や論文に公表した。また、2019年には、International Society of East Asian Philosophyの大会を研究代表者の所属する明治大学で実施し、 2021年には「東アジアレクチャーシリーズ」と題して5回のオンライン講演会を開催し、東アジアの哲学についての幅広い知識の獲得に努めた。
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