既存の研究では、伊波普猷は日本への同化主義を唱えたかどうかがひとつの大きな論点となってきたが、本研究では、そうした二項対立的な議論から脱し、科学思想史の中に伊波の思想を投げ返し、当時の知的状況が彼にどのような思想を生み出させていったのかをあきらかにしたところに学術的意義がある。それは、伊波の思想を、沖縄学として単に称揚したり、同化主義だとして切り捨てたりするという評価の仕方から脱して、日本近代の「科学」が知識人をどう規定していったのか、そしてそこに生み出された言説がどのような意味を持ったのかを捉えるという、科学(史)への根本的な批判の地平を切り開くものである。
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