2019年から2021年まで「ポスト印象派におけるユートピア芸術論に関する総合的研究」の関連事業として毎年、計3回、国際シンポジウムを実施したが、シンポジウム登壇者11名(内、イギリス人1名、アメリカ人2名、フランス人2名、スイス人1名)に加えて当該テーマに関心を持つ4名(内、フランス人1名)、計15名の研究者に参加を呼び掛けて、5年間(コロナのため2年間延長)の研究成果を論文集として出版すべく出版助成金を申請して採択され、論文執筆、外国人論文の翻訳、編集作業を進めた。 2019年にゴッホのユートピア、アルルとセザンヌのユートピア、マルセイユとエクス・アン・プロヴァンスの現地調査を行ったが、コロナ禍で海外調査の中断を余儀なくされた。2023年、海外渡航が容易になり、ゴーギャンのユートピア、ブルターニュ地方で10月26日~11月5日にかけて現地調査を実施した。ゴーギャンが制作したポン=タヴェン、ル・プルデュを訪れ具体的にゴーギャンが描いた風景や建物を尋ね歩き作品と現場風景や現物との比較を行いゴーギャンがユートピアと見做したブルターニュ地方でどのような着想を得て作品を生み出したのかを考察した。 セザンヌのユートピアがセザンヌが生きた時代の社会との関係から構想されたとの観点に立って、論文「セザンヌと社会」(高階絵里加/竹内幸絵編『芸術と社会―近代における創造活動の諸相―』森話社、2024年12月刊行予定)を執筆した。マルセイユとエクス・アン・プロヴァンスといったプロヴァンス地方をセザンヌがユートピアと見做したのは、パリ中心とする産業革命、都市改造、都市化、商業主義、中央集権化に対抗して反近代化思想を抱いたからだとの解釈を提唱した。
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