研究課題/領域番号 |
19K00132
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大橋 完太郎 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (40459285)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ノスタルジー / フランス現代思想 / フレンチセオリー / 記憶と芸術 |
研究実績の概要 |
本年度は主に、1960年以降のフランス現代思想における記憶・芸術論および、その影響を受けつつ形成された北米の文化・批評理論を中心に検討を進めた。 フランス現代思想における「ノスタルジー」概念について、初期デリダの著作においてその重要性を確認することができた。『エクリチュールと差異』や『グラマトロジー』といった初期著作において、問題とされる起源遡及への意志が「ノスタルジー」的なものとして表象され、1960年だから批判の対象となっていることは、脱構築における脱ノスタルジー的傾向を証明するものであろう。 また、こうした動向が北米の批評理論・文化理論に与えた影響についても考察を進めることができたので、今後はそれをジェイムソン『ポストモダニズム』やボードリヤールの消費社会論におけるノスタルジー的文化産業論と結びつけることができるであろう。 こうした研究の進捗をもとに、本年度は、ポストトゥルースおよびポストクリティークというポストノスタルジー的実践に関係する論考2本を執筆し(「ポストトゥルース試論2020」(『現代思想』所収、および「批評の消息」(『エクリヲ』所収))、また、フランス現代思想およびそれを受けた北米での展開を論じたポストトゥルースに関する翻訳著作2冊を準備することができた(ジャック・デリダ『スクリッブル――権力/書くこと』、およびリー・マッキンタイア『ポストトゥルース』)。それぞれの書籍については、単なる翻訳に止まらず、申請者本人の研究成果に基づく独自の論考を執筆した。なお、論考一本と著作二冊については、次年度2020年度の発表となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論考一本が刊行され、論考一本と翻訳著作二冊が次年度に具体的な刊行を待つ状態となったことは、本研究が順調に進捗していることを証明するものである。
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今後の研究の推進方策 |
1)フランス現代思想以前の(あるいはそれと並行して起こった)フランス現象学、ないしはエピステモロジーにおける記憶論、および記憶の物象化論(ジャン・ヴァールやジャンケレヴィッチなど)を、プルーストやベンヤミンなどの文化理論と組み合わせながら、1960年くらいまでの記憶・記憶文化論を再編成する。 2)1960年代以降の大衆消費社会の進展が、記憶と文化のあいだにどのような新しい関係を生みだし、「ノスタルジー」を文化消費のための情動としていったのかについて、北米およびフランスの現代文化理論を参照しながら考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に予定していた海外出張が、コロナウィルス関連の国際情勢により取りやめになったため。
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