研究課題/領域番号 |
19K00132
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大橋 完太郎 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (40459285)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ノスタルジー / 近代資本主義 / ポストモダン |
研究実績の概要 |
本年度は、所属大学の刊行助成を受け、論文一本を収めた編著一冊を刊行することができた(Kantaro OHASHI, "Nostalgia as a Modern Myth: From Modern Europe to Contemporary Japan"。『他者をめぐる人文学 グローバル世界における翻訳・媒介・伝達』、大橋完太郎ほか編、神戸大学出版会、2021年、120-136ページ)。本論は。ノスタルジーの構造の転換を近代日本に読み込み、後期資本主義特有のノスタルジーにつながる様態を提示したという意味で、本研究の内容に直結した成果である。ほかにも、大阪大学、フランス・パリ第10大学との共同研究成果を収めた論集を編集し、そこにおいても、18世紀フランスの思想家のテキストを対象に近代化に伴う経験の窮乏が廃墟的ノスタルジーを伴うものであるという議論を展開した。(Kantaro OHASHI, "L'enjeu philosophique de la pauvrete chez Diderot", 『人間技術と文化に関する国際共同研究』、大橋完太郎ほか編、2021年、82-92ページ)。 ほかにも、ヒエログリフ解釈を主題にアーカイブと権力の関係を論じたフランスの思想家ジャック・デリダの著作を日本語訳し(ジャック・デリダ『スクリッブル』、大橋完太郎訳、月曜社、2020年)、西洋世界において「古いもの」が歴史性を剥奪された形で表明されるという形で偽書の存在を論じた論考(大橋完太郎「偽書の思想史」『ユリイカ』52(15)、2020年、139-145ページ)など、関連する多数の業績を発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランスにおける実地調査において関連研究を精査する計画は感染症の影響で延期されているが、それ以外の進捗については、編著二冊および同書内の英語論文およびフランス語論文をそれぞれ編著として一ずつ部刊行、関連する依頼論文二件、および関連論考を後書きとして含んだ英語圏の研究の翻訳1件と、フランス現代思想の関連研究の翻訳を一冊刊行した。国内における論考の刊行としては順調なものがある。 他方で、国外の研究動向については、感染症の影響もあり、国内で入手可能な書物を通じた間接的な情報収集にとどまっている。とりわけ、フランスの現象学から実存主義にかけて展開された記憶論とそれに伴い展開されたノスタルジー論については、これまでの研究成果を踏まえた上で議論に組み込み、構成していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
一つは、哲学的な観点でのノスタルジー概念の分析が必要である。上の箇所でも述べたが、現象学の自我定立理論における記憶とノスタルジーの構造を、とりわけハイデガーおよびフランスでのその受容を通じて理論的に理解することで、20世紀以降の時代に自我論が被ったノスタルジー的概念の影響を考えることができる。 もうひとつは、後期資本主義社会におけるノスタルジー的なものの商品かと消費の様態について、さらなる理論化が必要となる。これについては、アメリカの理論家であるフレドリック・ジェイムソンのポストモダニズムろんにおけるノスタルジーの役割が解析されるべきであろう。この現象については、事象としての重要性は明らかであるものの、今日まで正確な理解が提示されているとは言い難い。 上記の観点に基づく理論的な考察を加味することにより、後期資本主義の発展から21世紀に至るまでの文化現象に伴うノスタルジー的なものの必然的な存在について仮説を構築できるのではないかと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
パリ第10大学との国際共同研究、およびフランスにおける現地での資料調査が、感染症の影響で次年度以降への延期を余儀なくされたため
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