最終年度にあたる2023年度では、前年度の在外研修時に採取した各種の学術的な論文や書籍を用いて、ノスタルジーを利用した陰謀論的な構造についての研究を進めた。状況的な側面を視野に入れると、前年度までのフィクション論がさらに先鋭化した形となって推し進められたが、まだ論考など具体的な形をとるまでには至っていない。科学的な知見とノスタルジックなイデオロギーという観点では、啓蒙期フランスにおけるジェンダーロールの偏りを論じた論考を敢行することができた。また、ノスタルジーを可能にする原因のひとつである「雰囲気/ムード」に関しても、国際的な専門学術誌から査読論文の依頼を受け、該当年度内に原稿を提出し、査読後修正を施したものが掲載されることになった。これについては、萌芽的なレベルで国際的な学会での口頭発表を行う機会を通じて、問題をさらに先鋭化することができた。 研究期間全体を通して考えると、理論的なレベルでの精緻化をまだ完全に遂行することはできなかったが、科学史や雰囲気学など関連領域との関わりを通じて、近代以降のノスタルジーのあり方を個別的具体的にとらえることはできたのではないかと考えられる。なお、ノスタルジーの理論的な諸相を概念史的にとらえる試みとして、一冊の単著刊行が企画可能なまでに至ったことも成果の一つである。
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