研究課題/領域番号 |
19K00138
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 展示 / 投影 / クンストカマー / 演示的レトリック / 錬金術 / 解剖 / 検尿 / 騙し絵 |
研究実績の概要 |
2020年度はコロナ禍で予定していた現地調査ができなくなり、手元に収集済みの文献を読み進めることが中心となった。特に、クンストカマーと医学的言説が接合して生成する視覚空間を17世紀オランダ絵画の代表的ジャンルの1つである風俗画の中にみた。 検尿を題材として室内で具体化される医学の言説と、登場しつつあった解剖の言説が生成する視覚の装置としてクンストカマーの重要性を確認した。表裏にある死と生、風俗画の中で反復される検尿や解剖という医学、これらを紐帯する(疑似)科学としての錬金術が、騙し絵のレトリカルな構図において成立していることとの関わりについて調査を進めた。これらの絵画では、医療と錬金術が死と性の享楽の構図の中に配置されている。医療と錬金術の両方の(疑似)科学が死の享楽と戯れる領域として表象されていた。絵画自体はクンストカマーと同様の展示の空間として扱うことができる一方で、絵画内部の空間は投影という構造の中でレトリカルに構成されている。 古典レトリックから17世紀の絵画論に受容されたのは演示的レトリックというジャンルであるが、そのジャンルを成立させる画家の絵画技法と共に、少なくとも調査対象とした絵画では、投影構造をレトリカルなテクネーとして抽出することが可能であることを確認した。 臓器や骨格の保存ができるようになった17世紀では、解剖が単なる身体を腑分けして内側を可視化するだけでなく、それを保存して展示するということにも価値が見出されており、この展示という文化(そして、展示というジャンルとしての演示的レトリックの文化的実践)に備わる身体に与えられる眼差しを手がかりとして、レトリックの歴史的考察を始める準備ができた。こうした成果の一端は論文「視線の両義性――17世紀オランダ風俗画にみる検尿の騙し絵」として『<みる/みられる>のメディア論』(2021)で一般に披瀝した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は、コロナ禍で海外出張が不可能となり、予定していた資料収集と現地調査を断念した。そのため、昨年度からの大幅な進捗は見られない。1年間研究が滞ったため、研究期間を延長する予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に研究が進められるかどうかは、現時点で昨年度に引き続き、コロナとワクチン接種の状況次第となっている。仮に日本を出国できても、現地調査に赴く欧州への入国が難しく、2週間の自主隔離が要請されるとなると、調査の時間が大幅に削られることになってしまうかもしれない。 現地調査ができない場合、オンラインでアクセス可能な文献やイメージという制限の中で入手可能なものを手がかりに進めていくことになり、その場合には予定通りの成果をあげることが難しくなるかもしれない。 当初本年度に調査を進める予定であった室内画の知の側面についての検討は、可能な範囲で続けていく。欧州に出向くことができない可能性を想定し、その場合には国内でできる事として、絵画論とレトリック論の2つの領域で文献を読み進めて行く予定である。絵画論としてはサミュエル・ファン・ホーホストラーテンの『絵画芸術の高等画派入門』、レトリック論は重版されたジュラーデス・ヴォシアスによるレトリック論の教科書を中心とする。演劇や詩の朗読会等のスペクタクルを競技会で市民に披露した当時のレトリック協会とその表象についての調査も順次進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で海外出張ができず、予定していた資料収集と現地調査を断念した為、2021年度に使用を希望している。 昨年度予定していた2020年度当初の計画は、研究期間を1年延長して、1年ずらして執行したいと考えている。しかし、2021年度も、現地調査ができるかどうかは、現時点では不透明な状況である。 また、予定していたデータ編集用のPCの購入は、編集に対応できる容量と処理速度が十分な機種の販売が遅れている為、2021年度に購入を予定している。
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