研究課題/領域番号 |
19K00141
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
宮川 渉 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 特任講師 (10760051)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 音楽理論 / 理論と実践 / ジャンルの横断 / 現代音楽 / ジャズ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、リディアン・クロマティック・コンセプト(LCC)がジャズにおいてどのような形で使用された理論であるかを解明し、そこから武満徹のLCCの自作への取り入れ方の特徴を明らかにすることである。今年度は主にLCCに関する資料調査に取り組んだ。その調査を通じてこの音楽理論が今日国外においてジャズだけにとどまることなく、広く研究されていることが理解できた。またこの理論に関する分析方法も非常に多様で、音楽学的なアプローチは当然のことながら、社会学的な視点、または教育学的な角度から分析する手法も見られた。一方、LCCが国内では実践者や愛好家からは強い関心を持たれているものの、学術研究の対象には全くなっておらず、大きな隔たりが存在することが明らかになった。 本研究の大きな課題のひとつは、現代音楽とジャズという異なった音楽ジャンルを研究することである。実際、研究代表者はジャズを専門としておらず、LCCを資料のみから理解することは時に困難であった。そのためジョージ・ラッセルにこの理論を直接学んだ布施明仁氏と藤原大輔氏にインタビューする機会が得られたことは非常に有益であった。これにより、この理論への理解が深められただけでなく、この理論の問題点などをより多角的に考察することが可能になった。今後この研究を進めることにより、LCCがジャズだけでなく現代音楽などにおいても大きな可能性を持つものであるかを明らかにしたい。 またLCCには直接関係はないが、本研究に取り組む以前から進めていたスペクトル音楽に関する研究も継続した。このことにより、LCCを20世紀後半に生まれた他の音楽理論や作曲技法と比較し、20世紀後半の音楽家や作曲家たちに共通する考えや関心事を俯瞰して捉えることが可能になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予定していた国内での資料調査とリディアン・クロマティック・コンセプト(LCC)の関係者に対する調査を行なうことができた。一方、アメリカでの資料調査を予定していたが、まず国内で可能な資料調査を行なってから、アメリカに行く方が良いと判断し、今年度は渡航せず2020年度中にこの調査を実施する予定である。 また「研究実績の概要」で記したスペクトル音楽に関する研究に関連して、フィンランド人作曲家カイヤ・サーリアホの1980年代の作品を分析し、その結果を学会発表や論文という形でアウトプットした。サーリアホの作品には武満徹の音楽に共通する点があると考えられ、本研究にもその成果を生かしたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、これまで主にリディアン・クロマティック・コンセプト(LCC)を中心に研究に取り組んできたが、武満徹作品におけるLCCの役割に関しての研究も同時に進めることを考えている。すでに日本音楽表現学会第18回(ペガサス)大会で武満の《地平線のドーリア》に関する発表をすることが決まっており、この作品は武満がLCCに強く影響を受けた重要作品であるため、この発表の準備に現在取り組むことによって本研究を進めている。このように今後はLCC研究と武満研究という二段階の研究体制で進め、それらの調査結果を総合的に検証することを考えている。LCC研究に関しては、資料調査とLCC関係者へのインタビューを引き続き行なうと同時にアメリカでの調査の準備に取り組む。現在のコロナウイルス問題の関係からいつ実現するかは未定であるが、2021年2月から3月あたりに渡航することを予定している。 またこれらの研究調査への取り組みと同時に学会発表や論文投稿などの形で研究成果を積極的に発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたアメリカでの資料調査を延期したことが大きな理由である。またパソコンの購入も予定していたが、これまで使用していたパソコンが今年度中はまだ十分使用可能であると判断したために購入時期を2020年度に延期することにした。そのため2020年度の研究費の主な使用目的は海外出張やパソコンの購入費などとなる。 それ以外にもリディアン・クロマティック・コンセプトの関係者などへのインタビューを複数回にわたり行なう必要があり、また武満徹に関する資料を収集する上でも研究費が必要となる。
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