研究課題/領域番号 |
19K00145
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
大濱 慶子 神戸学院大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (30708566)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 交際舞 / 交誼舞 / 戦後社交ダンスの日中比較 / 文化娯楽 / プロレタリア / 労働組合 / レクリエーション / フォークダンス |
研究実績の概要 |
本年度は中華民国から中華人民共和国建国へという中国の政治、経済の転換期における社交ダンスの再生と新しい文化娯楽の創出について検討した。具体的な実施状況は以下の通りである。
1.1950年代中国で刊行された社交ダンスの教則本や舞踏集のほか、同時期に出版されていた『ソ連民間舞踏集』、『友誼舞』、『集団舞』、『人民民主国家民間舞』、『青年舞』などのダンスの教則本や「文化娯楽活動」に関わる文献を収集し、旧ソ連の舞踏の影響やこの時代に生まれた新しい形態のダンスについて検証した。 2.戦後日本の新聞に掲載された社交ダンスの記事、『ダンスと音楽』等の日本のダンス雑誌の分析、1940年代後半から50年代にかけて流行したフォークダンスの史料収集に取り組んだ。この研究を通じて、1950年代中国で提唱された文化娯楽活動やプロレタリアのための「交誼舞」の創出と、戦後日本で盛んに推奨されたレクリエーションや職場ダンス、労働組合と文化活動、日中両国で推進された男女平等、男女共学の政策とペアダンスの普及などの同時代的、共時的諸事象が浮かび上がってきた。これまで交流や接点がないと考えられてきた社会主義と資本主義の異なる体制下における社交ダンスの類似点を見出すことができ、研究の地平が広がったことは大きな進展であった。 3.大衆娯楽研究についての知見を深めるための研究集会として、中国ジェンダー研究会の協力の下、榎本泰子氏(中央大学教授)を招き、講演会(オンライン)を開催した。この講演会を通して、上海史、ジェンダー論、文学を専門とする多くの研究者と知り合うことができ、研究分野を超えて実り多い学術交流を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中華人民共和国建国初期における社交ダンス再生の研究を進めるため、当初はロシア語の専門家の協力を得て、現地で旧ソ連と中国の舞踏関係資料の調査や質的調査を行う予定であったが、新型コロナ感染拡大による渡航制限のため、実施することができなかった。このため学術データベースを利用したり、国内で可能な資料収集に制限された。一方で日本へ研究視点が移ったことが、戦後日本と中国の社交ダンスの比較という研究領域へ目を向けるきっかけとなり、新たな視座が開拓できたという収穫もあった。 以上から、2年目に計画していた研究の遂行という点からみると、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実施できなかった現地調査をどのように補うか、引き続き検討しつつ、すでに資料収集、分析した研究成果の公表や口頭発表の準備を進めている。 3年目は、改革開放期における社交ダンス(交誼舞)の復興やダンスブームの再来、1980年代に行われた日中社交ダンス交流について検討する。現地資料調査やこの時期の社交ダンス体験者に対する聞き取り調査を予定しているが、新型コロナの状況によりオンラインによる聞き取り等、代替可能な方法も模索していく。 引き続き関連の研究集会を開催し、国内外の研究者とのネットワークづくりに取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により本年度に予定していた研究協力者との現地資料調査や質的調査が実施できなかったこと、情報収集のための学会、研究会参加や講演会開催がオンラインに切り替わったことから旅費や翻訳作業にかかる支出が当初の予定を大幅に下回った。 生じた次年度の使用額については、本年度実施できなかった国内外の資料調査、聞き取り調査のための旅費や資料整理、翻訳、研究集会開催の経費にあてる。また3年目は1980年代の中国の社交ダンスの再興や日中ダンス交流の実態の解明に向けて、継続して資料調査や聞き取り調査を予定しており、そのための旅費やデータベースの作成、書籍購入費として使用する。
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