研究課題/領域番号 |
19K00149
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山口 惠里子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (20292493)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リチャード・ロング / 歩行 / マッドワーク / 消散 / 日常の美学 |
研究実績の概要 |
リチャード・ロングの歩行による彫刻作品とテクストワーク、およびマッドワークについて調査研究を進めた。新型コロナウィルスの感染状況が拡大し、海外に調査に出ることはできなかったが、国内の感染状況が落ち着いた時期に、直島のベネッセハウス ミュージアムを訪れ、展示されているロングの作品に関する調査研究を実施した。この調査と文献研究に基づき、日本語による研究論文を執筆し、日常の美学に関する論文集に寄稿した。本論文では、ロングの歩行に基づく彫刻と手に泥の跡をつけるマッドワークにおける「消散」を、日常が続くことの証として捉えている。この論文を収める論文集は、国内外の16名の執筆者に寄稿を依頼し、編集も行っている。本論文集は2022年度中に刊行予定である。また、ロング作品に関する英語の論文も執筆、学術雑誌に投稿した。
本研究は、リチャード・ロングの彫刻における「消散」が美術史においてどのような意味をもちうるのかを問うている。イギリス美術においてこの「消散」を画面に表現した画家としてウォルター・シッカート(1860-1942)を取り上げ、シッカート作品における「消散」を、彼が「料理」に例えた画面の処理に追跡した。本論文は、編集を担った『イギリス美術叢書VI エロスとタナトス、あるいは愉悦と戦慄ーージョセフ・ライト・オヴ・ダービーからポール・ナッシュへ』に所収された。
ロングやシッカートの芸術にみる「消散」の美学は、18世紀にロイヤル・アカデミーが創設されて以来、イギリス美術が追究してきた「完全」なる美学に対するアンチテーゼである。「完全」なる美学がイギリスに成立した背景とその美学に対する抵抗が生じた背景を追究した研究発表「19世紀イギリスにおけるラファエッローーラファエル 前派からウォルター・ペイターへ」を、美術史学会東支部大会のシンポジウム「ラファエッロとラファエロ 主義」において行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リチャード・ロング作品の「消散」に焦点を当てた論文を日本語と英語で執筆した。ただ、新型コロナウィルスの感染拡大のため、ロングの作品のみならず、ロングとの影響関係を探究する予定であったアンディ・ゴールズワージー、ハミッシュ・フルトンらの作品のギャラリーに残されている実作や文献をイギリスにおいて調査研究することができなかった。この影響関係についての研究は、本研究課題を延長した2022年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題については最終年度が2021年度だったが、新型コロナウィルスの感染拡大により海外において調査研究を実施する研究計画の変更をせざるを得なくなり、研究期間を2022年度まで延長した。2022年度は、感染状況を見て海外へと調査に行くことが可能であれば、調査に赴きたい。ロング作品における「消散」の意味を追究するためには、影響関係が指摘されるアンディ・ゴールズワージーやハミッシュ・フルトンらの作品との比較研究も重要である。2022年度は、彼らの作品の研究も進め、ロング作品における「消散」の美学、「不完全性」の美学についてさらなる研究を展開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
リチャード・ロングおよび関連作家の研究調査を、作品と所蔵されているイギリスをはじめとした海外で美術館等で実施する予定だったが、新型コロナウィルスの感染拡大により海外渡航が不可能となり、海外調査の旅費として支出を予定していた研究費を次年度に繰り越したため。
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