研究課題/領域番号 |
19K00149
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山口 惠里子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (20292493)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リチャード・ロング / 彫刻 / 消散 / 場所 / 日常の美学 / 不完全性の美学 |
研究実績の概要 |
リチャード・ロングは、歩行中に出会った場所に、その場所にある石や枝などをサークルやライン状に並べたり積み重ねたりした「彫刻」を制作する。その「彫刻」は、風に吹かれたり雨に打たれたりしてやがて消散し、永続しない。ロングはそのような「彫刻」を自ら撮影した写真で残す。本研究では、この消散する彫刻を考察することにより、ロング作品の「不完全性の美学」を追究している。2022年度は依然コロナ禍であり、イギリスの図書館等におけるロング作品に関する文献調査や、イギリスや日本の美術館等が所蔵するロングの「彫刻」の写真を調査することはできなかった。その中で、2021年度に執筆した論文「足の跡、手の後、息の跡ーーリチャード・ロングの彫刻における消散」を収めた編著『日常のかたちーー美学・建築・文学・食』の編集作業を進めた。本論集は2023年4月に筑波大学出版会から刊行された。本論集は、「日常の美学」という新しい学問領域にチャレンジした国内外の研究者の論文16本を収録したものである。ロングは一人孤独に歩いて作品を制作することから、ロング作品と日常は一見結びつかないように考えられる。しかし、歩くという行為自体が日常的な行為であり、ロングが「彫刻」のマテリアルとして用いる石や枝、そしてマッドワークに用いる泥も、ロングが「ありふれたもの」というように、きわめて日常的なマテリアルである。このような観点から、拙論ではロングの作品を「日常の美学」のなかに置いて考察した。 また、ロングが歩行中に「彫刻」を場所と場所の「間」に作ることに着目し、「間」の意味を問い直した英語論文を執筆した。この論文は、査読付の学術雑誌に2023年度に投稿する予定である。 さらに、「不完全性の美学」に関する別の編著の準備を進めている。この論集においてはロングとは別の作家から「不完全性の美学」を追究する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リチャード・ロングが永続しない彫刻を制作することの意義について、日常の美学の観点から考察した論文を、編著の中に発表することができた。またロングがやがては消散する彫刻を場所と場所の「間」に作ることに着目し、不完全性と間との関わりについて考察した英語論文を執筆した。2023年度にも、英語論文を執筆する準備ができている。ただし、コロナ禍において、ロングの彫刻が写真として所蔵されているイギリスや日本の美術館等での調査ができず、また予定していたロングの芸術との関係が深い他の芸術家(アンディ・ゴールズワージーら)の調査も困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、ロングの彫刻作品を写真として所蔵している美術館や、ロングのマッドワークやテキストワークを所蔵する美術館等での調査を実施するため、イギリス等での海外調査を行う。その調査に基づき、英語論文を執筆し、投稿する予定である。また、ロングと同様に、自然の中で石や葉、枝などを用いて、やはり消散する作品を制作したアンディ・ゴールズワージーらの作品にも調査をすすめ、イギリス現代美術における「不完全性の美学」についての研究をさらに展開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による予定していた海外での調査ができなかったことが主たる原因である。2023年度には、日本ではほとんど調査をすることができないロングの彫刻の作品や、アンディ・ゴールズワージーらの作品に関する調査を海外(イギリス等)で行う。
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