研究課題/領域番号 |
19K00154
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 均 大阪大学, COデザインセンター, 准教授 (60510683)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会関与型芸術 / アートプロジェクト / 美的ネットワーク理論 |
研究実績の概要 |
当該年度は、前半に本務校のサバティカル制度を活用して、フランクフルト大学に研究滞在した。この期間中は、ハンブルクの工芸博物館での《ソーシャル・デザイン》展とその関連イベントを調査する一方で、主として、ドミニク・ロペスの美的価値論について研究した。彼の美的価値論は、芸術の範疇には通常含まれないようなもの(ゲーム、ガーデニング、バリスタなど)も含めて、美的価値によって行為が方向付けられるような「美的実践」のメカニズムについて論じている。このメカニズムをロペスは、美的実践の各分野のなかで、さらには分野を超えて行為が結びつく「美的ネットワーク理論」として定式化している。研究代表者は、この「美的ネットワーク理論」が、社会関与型芸術、およびこれと密接な関係にあるアートプロジェクトにおける行為主体の相関関係を理解する上で有益なモデルを提示するという仮設を設定した。というのも、ロペスは、専門的な芸術家ではない人々の美的実践のと、芸術家の美的実践とのネットワークについても論じており、彼の議論を補足するならば、芸術家と非芸術家の実践の接続において生じる第3の互酬性のある実践として、アートプロジェクトを捉えることができると考えられるのである。研究代表者は、2019年5月にはロンドン美学フォーラムでロペス氏に直接面談して意見交換するなどして、「美的ネットワーク理論」について理解を深めた。この研究成果は、『Co*Design』に寄稿した(2020年7月刊行予定)。また、アートプロジェクトを美的に評価するための基本的な考え方については、2019年12月の大阪大学豊中地区研究交流会におけるポスター発表において公にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題の本来の主題は、グラント・ケスターの対話の美学を代表とする社会関与型芸術の理論と、ジャック・ランシエールの芸術の美的体制の理論を対比することであり、それを通じて、芸術の自律性と社会関与との関係について探求することであるが、調査の過程で、有益な比較第3項であり、美学理論として汎用性が高いと考えられるロペスの美的価値論の存在を知ったため、その調査に集中することとした。そのため、本来の主題に本格的に着手することが遅れてしまったことは否定できない。当該年度の成果をふまえて、次年度以降、遅れを取り戻す予定である。研究成果の公開も滞っていることは否定できないため、今後ペースを上げて発表を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の本来の主題であるケスターとランシエールの著作や、それに関わる研究を主として調査する。近年の著作だけでなく、長期的な思想の変遷が明らかになるよう過去の著作も検討範囲に入れることによって、対話の美学と芸術の美的体制の理論の成立過程が明らかになるよう努める。さらに、当該年度に検討したロペスの美的ネットワーク理論とそれに関連する研究も比較第3項とすることによって、より多面的な研究とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献調査の進捗状況の関係で物品費が一部次年度に繰り越しになった。次年度の物品費と併せて資料収集のために支出する予定である。
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