研究課題/領域番号 |
19K00154
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 均 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (60510683)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 美的ネットワーク理論 / 社会的開放 / 芸術の社会的機能 |
研究実績の概要 |
2020年度は、芸術家と非芸術家の対話的・協働的な芸術実践の理論的基盤を探るため、英語圏の哲学的美学について調査を行った。具体的には、ドミニク・ロペスの美的ネットワーク理論と、ニック・リグルの社会的開放の理論である。前者は、美的性質と美的価値の対応関係(美的プロファイル)を共有するコミュニティに注目し、その内部とコミュニティ相互のネットワークについて論じる議論であり、複数のネットワークの技術の交換のハブとして専門化された芸術実践の領域を性格づけるものである。この議論は、芸術家と非芸術家の協働の意義について理解する上で有効である。ロペス自身は明確に論じていないが、この理論によれば、芸術家と非芸術家とのあいだで、双方向的に、技術や美的プロファイルが交換される可能性が説明できる。後者のリグルの理論は、所与の規範や役割から逸脱して個性を他者に示す「社会的開放」を、他者がやはり「社会的開放」を通じて受け入れるという相互的な関係について論じている。このリグルの理論が重要であるのは、対話的・協働的な芸術実践にたいする鑑賞のあり方の条件を定式化することに有益だからである。こうした実践については、外部的視点からの「客観的」な鑑賞が困難であるという問題点がかねてから指摘されるが、リグルの議論をふまえれば、社会的開放を含む実践は、それを観察する側にも社会的開放が求められることが理解される。これらの調査検討のほかに、『美学の事典』において、「芸術の社会的機能――社会参加の美学」という項目を執筆し、アートプロジェクトや社会関与型芸術について、芸術の自律性/他律性の概念を適用するさいの問題点などについて、歴史的背景を含めて言及した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染拡大によるオンライン授業への移行の影響は大きく、文献・資料の分析のための時間が制約されたため、本研究課題のためのエフォートが低下してしまった。この点は、2021年度に注力する必要を痛感している。とはいえ、英語圏の哲学的美学から、対話的・協働的な芸術実践について友好な知見を得られたことは確かな成果であったと考える。また、同じく感染拡大により、行動が制限されたことによって、芸術実践の現場との関わりが困難になってしまった。本研究は基本的に理論的な研究ではあるが、現場とのかかわりは研究の背景として不可欠なものであり、その点で研究の停滞が生じたと考えている。この点についても2021年度には、オンラインでの参画の機会をより積極的に活用するなどして、充実を図っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は研究計画の最終年度に当たり、これまでの成果をふまえて研究のまとめを行う予定である。これまでは、対話的・協働的な芸術実践についての理論的モデルを得るための作業として英語圏の哲学的美学を調査してきた。それをふまえて、もともとの研究主題である、ランシエールの「芸術の美的体制」の理論と、ケスターをはじめとする対話と協働の美学について、両者の対立点とその背景を明確にした上で、有効な統合的理解の可能性を探ることに集中する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大のためオンライン授業に対応する必要が生じ、研究のためのエフォートが抑制されてしまった結果、研究資料を十分に購入することができなかった。また、当該研究にかかわる学会・研究会・展示・イベントが中止あるいはオンライン開催されたこと、また、オンサイトで実施されたとしても移動制限のため訪問が困難であったために旅費の使用も当初の予定を下回った。 本年度は、研究計画の最終年度ととして、研究成果をまとめるため、特に年度前半に資料収集と分析に注力する。助成金は主としてこの目的に充当する。また、年度後半に研究成果を発表するためにも助成金を使用する予定である。
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