本研究はもともと、ジャック・ランシエールによる芸術の美的体制をめぐる議論と、グラント・ケスターによる対話的・協働的芸術実践をめぐる議論とを比較することを目的としていた。しかし研究過程のなかで、専門的な芸術家と非専門家との対話的・協働的芸術実践についての理論的洞察を深めるためには、むしろ現代英語圏における美的価値論をめぐる論争が重要であることを認識した。そのため、ドミニク・ロペスによる「美的ネットワーク理論」とニック・リグルの「社会的開放」の理論が、それぞれ、参加者による能力の交換や、通常の規範からの開放といった点で、対話的・協働的芸術実践においてとりわけ重要な価値を捉えていることを指摘した。
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