研究課題/領域番号 |
19K00157
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
東 賢司 愛媛大学, 教育学部, 教授 (10264318)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 墓誌 / 墓誌銘 / 墓誌蓋 / 墓誌蓋銘 / 篆額 / 篆書 / 北魏 / 北斉 |
研究実績の概要 |
昨年度まで進めてきた墓誌蓋の分析結果を踏まえ、本年度は北朝時代に作成された墓誌蓋を持つ資料の中で標準的な作例とする資料が見られるかの検討を行った。その方法として選んだのは、後漢に編纂され、現代でも篆書の文字の標準として使用されている『説文解字』との比較という方法である。所謂「説文篆文」と墓誌蓋銘との一致率の高い資料を探した。その資料は墓誌蓋を有する156件の北朝墓誌蓋中に8件あり、一致率は8割から10割であった。内訳は北魏5件・東魏1件・北斉2件である。 一方、北朝の石刻資料としては、地上碑が著名である。北魏に作られた資料を中心に篆書の碑額17件の篆書と「説文篆文」を比較したが、一致率は平均値が四割程度であり、碑文の篆額の文字は、広く標準として認知されている「説文篆文」を念頭に置いて書いたのではないであろうということが推察できた。 また、上記の標準とすることができる墓誌蓋銘を持つ墓誌は、対になる誌石に楷書あるいは隷書の墓誌銘を有している。それらの墓誌銘については、必ずしも優れた書風ばかりではなかった。また、墓誌銘を作製するために関わった撰文者・書者・工匠についても、同一と思われる特徴を見いだすことはできなかった。特に墓誌銘に使用される語句について、それぞれの資料を比較して共通性を重点的に探ったが、一致率が高い資料が見られる等、顕著な特徴を見いだすことはできなかった。 ただ、例外的には、夫婦の墓誌銘に「銘曰+諡+四言詩」という通常の文体では使用することはない作例があり、おそらく撰文者は同一の人物であろうということが推測できた。 墓誌銘は四言あるいは六言によって文書が構成されている部分が多いが、四字あるいは六字が完全に一致するという墓誌銘はほぼ皆無であり、字数を絞って比較を行う必要があるということも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス対策のため、中国では日本人旅行者を受けいれていないことがあり、本年度は中国国内でのフィールド調査が実施できなかった。ただ、それまでの訪中により、2019年までの出版資料についてはほぼ網羅できている。北朝資料としては、1400件、72万字のデジタル資料がある。このため、従来のフィールド調査から得られた知見を研究に生かす方法から、デジタルデータを精査して新しい知見を導き出す手法に変更した。2019年以前の資料については、石刻資料・墓誌銘を研究する者の中では相当に情報があり、包括的に分析を行うことが可能だと思われるためである。資料には、発掘報告書等のデジタルデータ資料の他、拓本資料も含まれている。 アプローチの方法を変更することにより、数量が多く深く分析できていなかった資料の新たな価値を見いだし、特に墓誌銘の読解と註釈を行うことにより、それぞれの墓誌銘の性質や価値を定める新しい分類方法の手がかりを得ることができた。また、墓誌蓋銘の拓本資料を精査し、「正統的な書き方がされた墓誌蓋銘」を持つ墓誌について、その墓誌銘と書体や書風を比較することによって特徴把握ができることを明らかにした。 最も新しい資料を研究に加えることはできていないが、元々ある資料とデジタル資料を組み合わせる検証を行うことにより、当初の目的を達する研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
中国国内への日本人の入国は制限されており、日本でのワクチン接種の速度が加速しない限り、令和3年度も中国への訪問は難しいと思われる。そのため、従来の「フィールド調査による新しい情報獲得」の方法を改め、「資料の分析を深化させることによる新しい知見を獲得する」手法に改め、研究を継続することに改める予定である。 また、中国国内の入国が認められるようになった時のために、入手が必要な論文などの資料はリストアップし、速やかに整理ができるよう準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度から令和2年度にかけて中国での調査を行うため準備を進めていたが、中国国内の入国制限、日本国内の出国制限、大学での渡航禁止等が入れ替わり行われ、訪中することができなかった。また、国内での学会も中止された。そのため、研究の費用の大半を使用する旅費や中国国内での資料購入を行うことができず、やむを得ず繰り越しをすることになった。 繰り越した資金は、次年度の訪中にむけての予算とするが、更に出入国制限が継続される場合は、日本国内から中国のデータを取得できる研究期間に出向き、必要な情報を得られるようにする。
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