英語圏における日本アニメ作品研究とその批評的主題の再考察

2022 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K00161
• 研究機関: 早稲田大学
• 研究代表者: 吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: アニメ

研究実績の概要

2022年度は2021年度に着手した理論化の作業をさらに進めることができた。英語圏における日本アニメ作品研究を理論的に再検討するために、戦後あるいはより具体的に1960年代以降のアニメ史の歴史的枠組の構築、アニメのテクスト性の再検討、アニメ批評と英米サブカルチャー理論の関連性の批判的吟味などに継続して取り組んだ。アニメ史に関しては、アニメと実写映画という安易なジャンル分類を超えた時代区分の重要性、とくにナショナルな枠組みにとらわれない映画史と関連付けることが不可欠であるとの結論にいたり、そのために必要な関連論文・研究書などを調査し研究ノートを作成した。またこれは以前から関心を持って研究を続けていたトピックではあるが、「ポストモダン」概念の本格的な見直し作業もおこなった。英米圏のアニメ研究ではポストモダンという言葉が正確に定義されることなく安易に使われる傾向があり、それが研究の進展を阻害してきた。アニメ研究におけるポストモダン概念の用例を蒐集し、それらを具体的に検討することで、ポストモダン批評の問題点をまとめることができた。つまり2022年度には、現在執筆を進めている英文研究書で議論をする問題やトピックがほぼ確定し、また大まかな章立ても出来上がった。個別の研究論文出版や学会発表などをおこなうことはできなかったが、英語での研究書出版という最終目標には大きく前進することができたと考えている。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2021年度と同じく、新型コロナに翻弄された一年であった。海外の学会やシンポジウムでの研究発表、研究者との交流は海外出張が厳しく制限されている中で計画することさえ難しく、感染が落ち着きを見せ始めた頃に新たに計画を立てることはまったく現実的でなかった。また海外から研究者を招聘し国内で研究に関連したイベントをおこなったり、研究交流の場を設けたりすることも同様の理由でかなわなかった。研究成果の外への発信という点において、想定以上に遅れをとってしまったことは認めざるをえない。ただし、上の研究実績概要に記した通り、研究書の英文原稿執筆は着実に進展しており、当初の計画通りとは言えないが、「やや遅れている」というレベルの進捗状況はなんとか確保できている。

今後の研究の推進方策

補助事業期間を延長したため、2023年度が本研究の最終年度になる。残りの研究費は海外出張や招聘をおこなうためには十分ではないため、本年度も引き続き文献調査と並行して、英文原稿の執筆に取り組んでいきたい。理想的には著書の第一稿を仕上げたいところだが、それが難しい場合でも、本の企画書をアメリカの大学出版局に提出することができる段階までには原稿執筆を進めたい。加えて、研究課題に関連したシンポジウムを国内の研究者を集めて開催することができないかどうか、現在その可能性を探っている。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍による大幅な移動制限が続く中、出張や招聘に必要な交通・滞在のために研究費を使用することができなかった。繰り越し分は、本研究を完了するために必要な最後の研究資料を購入することに使う予定である。