18世紀のヴァイオリン奏者・作曲家ジュゼッペ・タルティーニの理論的主著『和声の真の知識に基づく音楽論』(1754)第5章を分析した。彼は古代ギリシア音楽と同種の諸性質を当代の民謡に見出し、それらを「自然」という普遍的な観念に根拠づけている。ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に着想を得た〈タッソのアリア〉は、タルティーニが古代音楽に見出す「自然」の原理を作曲実践において反映させたものと考えられる。また、タルティーニと交友関係にあった貴族ジャンリナルド・カルリの古代音楽観についても検討し、両者において古代音楽は純粋な理想であり、同時代の創作や評価の基準として機能していることが明らかとなった。
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