研究課題/領域番号 |
19K00169
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
石澤 靖典 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (20333768)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ルネサンス美術 / 地獄の空間化 / ダンテ評価 / ボッティチェッリ / アントニオ・マネッティ |
研究実績の概要 |
(1)本研究が考察対象とするのは、15-16世紀のイタリアの人文主義者たちがダンテ『神曲』受容において示した、彼岸の三界(地獄、煉獄、天国)の形状や大きさに関する自然科学的関心と、ボッティチェッリやジュリアーノ・ダ・サンガッロら同時代のフィレンツの美術家たちが共有していた地獄の空間性に対する意識との相関性である。今年度はクリストフォロ・ランディーノ版『神曲』註解(1481年)序文から1506年のジロラモ・ベニヴィエニ『アントニオ・マネッティの対話』(フィレンツェ、ジュンティ)へと展開するダンテ註解史の一局面に、〈地獄の断面〉図像を位置づける試みを、ベニヴィエニ版の木版挿絵および関連作品の分析からおし進めた。とりわけ、1515年のアルド・マヌツィオ版『神曲』には、ベニヴィエニ版を踏まえたうえでさらに精密さを増した地獄描写が見られることから、ここにフィレンツェの美術家による具体的な貢献のあったことを想定するに至った。この新たな知見を深めるとともに、これまでの考察内容との整合性を現在検証中である。 (2)1544年のアレッサンドロ・ヴェルテッロ版『神曲』(1544年)には、ランディーノに端を発するフィレンツェの戦略的な「ダンテ崇拝」に対するヴェネツィア文化圏の明白な対抗意識が見られる。しかし、ヴェルテッロ版に付された多数の木版挿絵がベニヴィエニ版の地獄の形状に多くの改変を加えているのとは対照的に、そのヴェルテッロ版に触発されて1568年にやはりヴェネツィアで出版されたベルナルディーノ・ダニエッロ註解版には、ヴェルテッロからの図像学的伝承以上にフィレンツェ絵画との関連性を窺わせる地獄・煉獄描写が多く見いだせる点が注目される。この点からダンテをめぐるフィレンツェと北イタリアの複雑な関係性について状況を明らかにする調査を続行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)アントニオ・マネッティの研究にもとづくフィレンツェ人文主義と美術家たちの協同関係を明らかにする調査は予定通り進んでいる。とりわけ、地獄の断面図の展開を、1515年のアルド・マヌツィオ版を含む『神曲』初期版本の挿絵史のなかに位置づける試みについては、その経緯を明らかにする論考を現在準備中である。 (2)16世紀ヴェネツィアにおける『神曲』受容には、フィレンツェの文化的覇権への反発と接近という二極性を見てとることができる。現在は、ルカ・マルティーニやヴァルキなど、16世紀のフィレンツェ・アカデミーのダンテ研究者やヴァザーリ周辺の美術家たちと北イタリアの『神曲』註解史の接点を明らかにするとともに、1568年のベルナルディーノ・ダニエッロ註解版の出版経緯と挿絵図像の成立背景を調査中である。 (3)前年度に引き続き、『神曲』註解版の異本や挿絵入り版本の実見調査をフィレンツェおよびローマで実施する予定だったが、新型コロナウイルスの流行にともなう海外渡航情勢の不安定さから、現地調査は次年度に持ち越すこととした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ジロラモ・ベニヴィエニ『アントニオ・マネッティの対話』と1515年のアルド・マヌツィオ版『神曲』のそれぞれのテキストと挿絵を照合し、ランディーノ以来のダンテ註解史、とりわけ彼岸世界に関する地理学的関心の発展において、〈地獄の断面〉図像が果たした役割を明らかにする。 (2)ヴェネツィアにおけるダンテ受容において、ヴェルテッロ版『神曲』がベルナルディーノ・ダニエッロ註解版へと受け継がれる過程で、彼岸の三界の描写が大きく変化した経緯を明らかにする。またその過程においてヴァザーリ周辺のフィレンツェ画家による地獄・煉獄表象がヴェネツィア文化圏に与えた図像学的影響を検証する。 (3)以上の研究内容を成果報告書として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:予定していた海外調査が、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう海外渡航中止勧告により困難となったため、年度内の実施を見送ることとした。この調査に関しては、次年度秋以降に遂行するよう予定を変更したため、旅費に割り当てていた予算の一部に関し、繰り越し申請をおこなった。 使用計画:次年度秋以降に海外調査をおこない、不足していたフィレンツェおよびローマでの現地調査を補完する。この調査のために、前年度に旅費として割り当てていた予算の一部を使用する。
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