2022年度もコロナ禍のために海外調査が困難であり、基本的にはこれまで収集した文献、資料の整理・読解によって研究を続行した。しかし、2023年2月17日から24日まで最後の海外調査をパリで行うことができた。オルセー美術館にて、ファンタン=ラトゥールの作品を再調査するとともに資料・文献を参照し、フランス国立図書館にてファンタン夫人によるサロン批評切り抜き帖、作品目録、さらに展覧会カタログなどを調査した。 ファンタンと音楽のテーマについては、友人でドイツの画家オットー・ショルデラーとの書簡集(2011年)の読解をさらに継続し、二人の親密な友人関係を、両者ともに音楽好きという点を含めて理解することができた。また、今年度はファンタンと音楽というテーマに関してとりわけ重要なヴァーグナー体験を、1861年の「タンホイザー」パリ公演に焦点を当てて研究した。その成果を、2022年11月から2023年2月まで開催された、「パリ・オペラ座展」(アーティゾン美術館)に盛り込み、フランス国立図書館からファンタン作のリトグラフ「タンホイザー、ヴェーヌスベルク」(1862年)、パリ公演のポスター、バレエ挿入部の楽譜、舞台美術案など、関連する作品・資料を借用展示することができた。ファンタンにとってのヴァーグナー原体験とも言うべき「タンホイザー」パリ公演の研究が進展したことは重要な成果となった。 一方、ファンタン=ラトゥールと花の静物画については、国内の重要作品のひとつである、《静物(花、果実、ワイングラスとティーカップ)》(1865年、アーティゾン美術館)について調査した。1860年代中葉に集中して描かれた数点の静物画(テーブルの上の花や果物)の1点で、17世紀オランダや18世紀フランスの影響は当然あるが、そのモチーフ、整然としたその配置にある寓意性を読み取る可能性を指摘することができた。
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