研究課題/領域番号 |
19K00175
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
水野 千依 青山学院大学, 文学部, 教授 (40330055)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ダイアグラム / 記憶術 / サン=ヴィクトルのフーゴー / フラ・アンジェリコ / オピキヌス・デ・カニストリス / ジャン・パオロ・ロマッツォ / マシュー・パリス / 世界地図 |
研究実績の概要 |
中世・ルネサンスの霊的修養において重視されたダイアグラム的図像を引き続き調査した。その成果をシンポジウムで発表し、2本の論文として公表した。 まず2023年度刊行予定の『はるかなる「時」のかなたに』(辻成史編、三元社)では、12世紀フランスの神学者サン=ヴィクトルのフーゴーが心に描くよう推奨する「ノアの方舟」の「絵(pictura)」、そして14世紀の教皇庁書記官オピキヌス・デ・カネストリスが統合失調により体験した啓示を描いた素描を中心に、ダイアグラム的形象と霊的思考との関係を分析した論文を寄稿した。 さらに、東大人文・熊野フォーラムin本郷「羽黒と熊野Ⅱ:聖地と絵図」では、「キリスト教中世の世界地図(mappa mundi)―鳥瞰的眺望とその彼岸」と題し、ロンドンの北セント・オールバンズ大修道院のベネディクト修道会士マシュー・パリスの『大年代記』(13世紀)に描かれた聖地へのロードマップとキリストの聖顔を取り上げ、至福直感を希求する心の巡礼の旅程と地図的形象の問題を考察した。 また、ダイアグラムや記憶術的概念図がマニエリスム期には芸術理論を講じるテクストに息づいていく点に着目し、ジャン・パオロ・ロマッツォの『絵画殿堂のイデア(Idea del Tempio della Pittura)』(1590)の翻訳・註釈作業を進め、その一部を『青山学院大学文学部人文科学研究所論叢』に公表した。ジュリオ・カミッロの『劇場のイデア』などに想を得て、ロマッツォが書物の中にペンで建立する絵画の殿堂も、新プラトン主義的なオカルティズムという文脈において、芸術のイデアへと心を高める機能をそなえ、中世の霊的修養の人文主義的展開を考察する重要な布石となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中世からルネサンスの霊的修養に関わるダイアグラム的形象の問題については、さまざまな対象を取り上げ、論文や研究発表の形で公表しており、おおむね順調に進展している。ただし、コロナの影響もあり海外調査を実行できておらず、また一冊の単著にまとめるには至っておらず、研究期間を一年延長することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を単著という形で一貫性のある論にまとめるよう執筆を進める。 さらに、まだ実見できていない作例がイタリア、フランス、イギリスなどに存在するため、現地調査を実行する。 オピキヌス・デ・カニストリスの啓示的素描については、引き続き図像分析、そして素描に記された難解なテクストの解読・分析を進めていかねばならない。 また、ジャン・パオロ・ロマッツォ『絵画の殿堂のイデア』の翻訳・註釈を引き続き進め、中世には主に霊的修錬において用いられたダイアグラム的形象が、ルネサンスやマニエリスム期にいかに変容を遂げていくかをさらに掘り下げて考察していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で海外調査を控えたため、海外出張費を執行できず次年度使用額が生じた。次年度は、研究に必要な文献の購入に加え、まだ実見できていない写本や作品を調査するために、イタリア、フランス、イギリスなどへの出張に研究費を使用する予定である。
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